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【解説】海佐知毘古と鉄の釣針

火遠理命(ほおりのみこと、山佐知毘古・山幸彦)と火照命(ほでりのみこと、海佐知毘古・海幸彦)の神話では、鉄製の釣針は山幸彦が海神の宮へと行く切っ掛けとなる一方で呪詛の対象となり、物語の中で重要な役割をはたす。鉄製の釣針は古墳時代には普及し、東国でも古墳時代初期(三世紀)の事例が高部三十二号墳(前方後方墳、千葉県)から出土している。この鉄製釣針は、長さ八・九センチ、幅三・五センチで、実用品としては大きすぎる。おそらく、この巨大な鉄の釣針は、海での漁撈(ぎょろう)生産を象徴するものとして、儀礼用に作られ古墳に納められたと考えられる。古事記で海幸彦が捕る大小の魚は「鰭の広物(はたのひろもの)・鰭の狭物(はたのさもの)」と表現されている。これは延喜式の祝詞における神饌の表現そのもので、古代の神饌には海産物が多用され、漁撈の重要性がうかがえる。海幸彦の鉄製釣針は、古代社会における海産物と漁撈生産の重要性を象徴的に物語っているといってよいだろう。

釣針をなくした火遠理命と塩椎神
(古事記学センター蔵『古事記絵伝』より)

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