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天比登都柱

読み
あまひとつはしら
ローマ字表記
Amahitotsuhashira
別名
伊岐島
登場箇所
上・国生み神生み
他の文献の登場箇所
紀 壱岐島(四段本書)/壱岐洲(四段一書七)
旧 天比登都柱(陰陽本紀)/壱岐州(陰陽本紀)/伊岐嶋(陰陽本紀)
梗概
 伊耶那岐・伊耶那美二神の国生みによって生まれた。伊岐島(壱岐島)の別名。
諸説
 「伊岐島」は長崎県の壱岐島に比定されている。『日本書紀』で大八洲国の誕生を伝える六伝承(本書・一書一・六・七・八・九)のうち、一書七以外では伊岐島(壱岐洲)と津島(対馬洲)が含まれていない。大八島国にこの両島が算入された伝承が生じたのは比較的後のことで、『古事記』の伝は『日本書紀』に伝える国生みの諸伝より新しいであろうことが論じられている。『日本書紀』の諸伝では、両島の代りに越洲・吉備子洲が大八島国に数えられているが、これを古い様式と見なし、大陸との交通上重要な伊岐島と津島を新たに加入した結果、八の数に合せるために越洲・吉備子洲が除外されたとする説がある。
 天比登都柱の読み方は、訓注に「訓天、如天」とあり、これをどのように理解するかが問題となる。『古事記』でアメノ・アマ・アマノという読みが取られる場合、普通は注がつけられていないことや、この訓注は、神名の構成が「天、比登都柱」であって「天比登都、柱」でないことを示していると考えられることなどから、下の語と複合するアマという語形ではなく、単独の語形であるアメという、「天」の字の一般的な読み方を指しているとする説がある。一方、前に出てきた「高天原」の「天」をアマと読む訓注にならって、アマと読むべきことを示しているとする説もある。
 名義は、「天一つ柱」と解される。「天」を読みを単独の形のアメと取るか、複合する形のアマと取るかで、語構成の理解も「天、比登都柱」「天比登都、柱」と異なってくるが、いずれにしてもこの名は、壱岐島が離れた孤島であることに基づいた命名とされている。島を柱に喩える例は、『万葉集』に「海神は 奇しきものか 淡路島 中に立て置きて」(3・388)とあることや、『日本書紀』にオノゴロ島を「国中之柱」とする例が挙げられ、「柱」という表現は、天に向ってそそりたつ様が表わされていると見る説がある。『万葉集』の歌の「海神は」の表現から、海神が海の中に立て置いたと考えられていたとみる説もある。ほかに、「天」を美称とし、「一つ柱」をただ一人の意として、島の人体化の表現とみる説や、「天」を天空とし、「柱」を神の依代となる木とする説などがある。
 卜部氏の氏文である『新撰亀相記』では「壱岐嶋卜部上祖、天比豆都柱命」とあり、壱岐島の卜部氏の祖とされているが、『日本三代実録』には、壱岐島出身の卜部是雄の祖を雷大臣命とする記事や忍見足尼命とする記事があり、この氏の祖神は、伊豆国・対馬の卜部との混同も含めて、伝による相違があることが指摘されている。『古事記』での島名に対する「亦名」の記載は、当地の氏族の伝承を反映する意図によったもので、この神名も壱岐卜部氏の伝承に基づくものではないかとする説がある。
参考文献
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西郷信綱『古事記注釈 第一巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年4月、初出1975年1月)
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『古事記(新編日本古典文学全集)』(山口佳紀・神野志隆光 校注・訳、小学館、1997年6月)
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松村武雄『日本神話の研究 第二巻』(培風館、1955年1月)第三章
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小松英雄『国語史学基礎論(2006簡装版)』(笠間書院、2006年11月、1973年1月初版)第3章
前田安信「大八嶋国小考―島の出入りをめぐって―」(『野田教授退官記念 日本文学新見―研究と資料―』笠間書院、1976年3月)
西宮一民「古事記「訓読」の論」(『萬葉』94号、1977年4月)
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堀江潔「継体朝の対外交渉と壱岐島―壱岐島の月神の山背遷祀をめぐって―」(『古代壱岐島の世界』高志書院、2012年10月)
岸根敏幸「『古事記』神話と『日本書紀』神話の比較研究―特に別天つ神、神世七代、および、国生みをめぐって―」(『福岡大学人文論叢』44巻4号、2013年3月)
勝俣隆「古事記の国生み神話では、なぜ長崎県の領域が大きな位置を占めているのか。」(『上代日本の神話・伝説・万葉歌の解釈』おうふう、2017年3月、初出2016年7月)
浅岡悦子「古代卜部氏の研究―『新撰亀相記』からみる祭祀氏族の系譜―」(『人間文化研究』27号、2017年1月)

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