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道反之大神

読み
ちがへしのおほかみ/ちがえしのおおかみ
ローマ字表記
Chigaeshinoōkami
別名
塞坐黄泉戸大神
登場箇所
上・黄泉の国
他の文献の登場箇所
紀 道反大神(五段一書六)
旧 道反大神(陰陽本紀)
梗概
 伊耶那岐神が黄泉国から逃げ還った際、伊耶那美神に追われて、黄泉比良坂を塞いだ千引の石(ちびきのいは)につけられた名。また、塞坐黄泉戸大神ともいう。
諸説
 「道反」という名は、伊耶那美神を道から追い返したことによるものとされる。また、悪霊邪鬼を道から追い返す、磐石の呪力の信仰に基づいた命名とする説がある。
 黄泉比良坂のサカは、境界を意味するとされ、すなわち、黄泉比良坂は現世と冥界との境界の坂であると考えられる。それを遮断した千引の石、道反之大神には、道祖神、塞の神のような境界神としての性格が濃厚にうかがわれる。道祖神は、主に石を神体として村の境域に置かれ、悪霊や疫神などの災いの侵入をせきとめる神で、その風習は現代まで全国各地で受け継がれている。この神話は、そのような境界神の信仰を基盤に持つものと捉えることができる。古代における、石、岩に対する防塞の呪力の信仰は、邪鬼が京に侵入しないよう祈願する道饗祭の祝詞の中にもうかがわれ、そこでは、根の国・底の国からやってくるものを防ぐ三柱の防塞神を塞がる岩にたとえている。外国には、死者を葬った場所から村への道の間に障害物を設置して死霊の侵入を防ぐ儀礼があり、黄泉比良坂を塞ぐ神話についても、葬送におけるそのような実際的な儀礼を根源に持つとする説がある。また、『古事記』に描かれた黄泉国が、古墳の横穴式石室の様相を反映しているとする立場からは、遺体の眠る玄室へ続く羨道の入口部を石塊で閉塞する儀礼を反映したものとする説もある。
 この神が「大神」と称されている理由については、現世と冥界との境界神としての重要性や、両世界を遮断することの神話の構成上の重要性などが説かれている。また、同じく大神となった伊耶那美神とともに、岐美二神のコトドワタシの場の影響力による変異と捉える説がある。
参考文献
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佐藤正英「黄泉国の在りか」(『現代思想』10巻12号、1982年9月)
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梅田徹「イザナキの黄泉国訪問と「大神」への変異―『古事記』の神代―」(『帝塚山学院大学日本文学研究』26号、1995年2月)
三浦佑之「境界としての〈坂〉」(『神話と歴史叙述』若草書房、1998年6月、初出1996年5月)
倉石忠彦「古代の境界認識」(『道祖神信仰の形成と展開』大河書房、2005年8月、初出1997年8月)
土生田純之『黄泉国の成立』(学生社、1998年)第三部
倉石忠彦「「佐倍乃加美」から「道祖神」へ」(『道祖神信仰の形成と展開』大河書房、2005年8月、初出2003年)
植田麦「黄泉比良坂と伊賦夜坂」(『古代日本神話の物語論的研究』和泉書院、2013年4月、初出2005年1月)
植田麦「「黄泉比良坂」追考」(『古代日本神話の物語論的研究』和泉書院、2013年4月、初出2009年3月)
勝俣隆「黄泉国訪問譚」(『異郷訪問譚・来訪譚の研究―上代日本文学編』和泉書院、2009年12月、初出2006年3月)
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『古典基礎語辞典』(大野晋編、角川学芸出版、2011年10月)
後山智香「境界としての「坂」―神話的空間からの脱却―」(『京都語文』25号、2017年11月)

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