國學院大学 「古典文化学」事業

道俣神

読み

ちまたのかみ

ローマ字表記

Chimatanokami

別名

-

登場箇所

上・みそぎ

他の文献の登場箇所

旧　道俣神（陰陽本紀）

梗概

　伊耶那岐神が黄泉国から帰還して禊をする際に、身に着けたものを脱いで化成した十二神（衝立船戸神・道之長乳歯神・時量師神・和豆良比能宇斯能神・道俣神・奥疎神・奥津那芸佐毘古神・奥津甲斐弁羅神・辺疎神・辺津那芸佐毘古神・辺津甲斐弁羅神）の内、投げ捨てた褌に成った神。

諸説

　同時に化生した十二神全体の意義としては、主な説として、(1)旅に関わる神々とする説、(2)黄泉国からの脱出に呼応する神々とする説、(3)邪悪なものを防塞し疫病を鎮める習俗の反映とする説、(4)禊ぎと関連して、流し遣った災厄や穢れ、あるいはそれを移した人形の神格化とする説、といったものがある。神話上の位置付けとして、この禊の段は、至高神天照大御神の出現の聖性の保証となる聖なる空間を作り出す叙述であり、これらの十二神もその役割を担ったものとする説がある。この神の位置付けについても、十二神全体の共通性や文脈に即して解釈されている。
　古事記では褌から成るが、書紀では褌からは開嚙神（古事記の飽咋之宇斯神に相当）が成っており、この神は現れない。道饗祭の祝詞に八衢比古・八衢比売・久那斗とあることと関連して、道祖神としての性格が窺われる。
　名義は、道の二股に分かれた処の意とされる。その神格は、災厄や穢れの捨てられる道の辻などに立つ神で、禊ぎとの関連が、異界との境界に当たることに見いだされるとする説がある。褌から成るのは、その二股に分かれている所によるとされる。

参考文献

森重敏「阿波岐原―古事記上巻について（5）―」（『国語国文』44巻2号、1975年2月）
菅野雅雄「禊祓条の化生神」（『菅野雅雄著作集　第三巻　古事記論叢3　成立』おうふう、2004年5月、初出1975年3月）
井手至「古事記禊祓の神々」（『遊文録　説話民俗篇』和泉書院、2004年5月、初出1980年3月）
吉井巖「箇男三神について」（『天皇の系譜と神話　三』塙書房、1992年10月、初出1992年1月）
神野志隆光・山口佳紀「『古事記』注解の試み（七）―伊耶那岐命の禊祓―」（『論集上代文学　第二十一冊』笠間書院、1996年2月）
吉野政治「禊ぎの前に化成する神々」（『古事記年報』42号、2000年1月）