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竈神

読み
かまのかみ
ローマ字表記
Kamanokami
別名
奥津比売命
大戸比売神
登場箇所
上・大年神の系譜
他の文献の登場箇所
-
梗概
 大年神の子、奥津比売命(別名、大戸比売神)は、諸人が崇拝する竈の神である(「此者、諸人以拝竃神者也」)とされる。
諸説
 『古事記』の大年神の系譜の段に、大年神と天知迦流美豆比売との間に生まれた子として、奥津日子神・奥津比売命(別名、大戸比売神)が挙げられた後に、「此は、諸人が以(も)ち拝(をろが)む竈の神ぞ」と記されている。普通この注記は、奥津比売命が竈の神として崇拝されていたことを意味すると解されているが、奥津日子神と奥津比売命の二柱を指す可能性も考えられている。
 「竈神」の「竈」の字の読み方は、平安時代中期の『和名類聚抄』の「竈」に「加万(かま)」という和訓が付されていることから、カマと読まれるのが一般的であるが、『万葉集』の「可麻度(かまど)には 火気吹き立てず」(万5・892)の用例に基づき、カマドと読む説もある。カマドのトは場所の意とされるが、『和名類聚抄』の「竈」の説明にも「炊爨処」とあることから、カマもカマドと同様に火をたく場所の意でも使われたと考えられており、両語の違いは明確でない。
 竈の神が、宮中の内膳司や大炊寮のほか、貴族の邸宅などでも祭られたことが、『続日本紀』以下の歴史書や『延喜式』などに確認される。その神格には、火神、家宅神といった側面も見いだされるが、遡って『古事記』の時代においてどのような神として信仰されていたかは不明な点が多い。注記中の「以拝」を、祖神への奉仕を表す「以伊都久」という語と同様にモチイツクと読んで、竈の神が家の守護神として諸人に祭られていたことを示すと解する説がある。
 竈神信仰の起源について、外来系氏族の住んだ畿内のいくつかの地域の古墳に、竈のミニチュアを副葬するという、在来の氏族には見られない慣行が見いだされることなどから、百済・漢の外来系氏族が竈とともにそれにまつわる儀礼や信仰をもたらしたとする見解がある。
 日本で使われた竈には、移動式の置き竈(韓竃)と、竪穴建物の壁に設けられた造り付け竈とがあるが、東日本を中心に出土する奈良時代から平安時代頃にかけての造り付け竈の遺跡の状況からは、住居の廃絶に伴う竈の解体に際して、竈神にまつわる祭祀が行われたことが考察されている。竈そのものが竈神の依り代として祭られたと捉える説もあるが、土器を支えるのに竈内で使用された土製支脚が竈神の依り代であったとする説や、墨書土器を竈神の神坐として神棚に祭られたとする説もあって、遺跡から想定される竈神の祭祀の実態は、見解が定まっていない。また、「竈神」と墨書された八世紀の土器や木簡も、官衙や住居など各地の遺跡から見つかっている。
 竈神の信仰は、漢籍の『抱朴子』などに見られる道教系の「竈神(そうしん)」との関連も考察されている。貴族の四方拝で他の外来神とともに拝される「竈神」(『江家次第』)は、その延長上にあると見なされるが、遺跡の竈神祭祀や『古事記』の竈神にどれほどその影響を認めうるかは、検討を要する。
 「奥津比売命」「大戸比売神」の項も参照。
参考文献
倉野憲司『古事記全註釈 第三巻 上巻篇(中)』(三省堂、1976年6月)
西郷信綱『古事記注釈 第三巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年8月、初出1976年4月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
『古事記(日本思想大系)』(青木和夫・石母田正・小林芳規・佐伯有清校注、岩波書店、1982年2月)
水野正好「外来系氏族と竈の信仰」(『大阪府の歴史』2号、大阪府史編集室、1972年3月)
松前健「古代宮廷竈神考」(『松前健著作集 第12巻 古代信仰と民俗』おうふう、1998年9月、初出1973年4月)
松前健「文献にあらわれた火の儀礼」(『松前健著作集 第12巻 古代信仰と民俗』おうふう、1998年9月、初出1974年12月)
桐原健「古代東国における竈信仰の一面―竈内支石のあり方について―」(『國學院雜誌』78巻9号、1977年9月)
寺沢知子「カマドへの祭祀的行為とカマド神の成立」(『同志社大学考古学シリーズⅤ 考古学と生活文化』同志社大学考古学シリーズ刊行会、1992年4月)
久松哉須子「カマドをめぐる祭祀」(『同志社大学考古学シリーズⅤ 考古学と生活文化』同志社大学考古学シリーズ刊行会、1992年4月)
狩野敏次『ものと人間の文化史117・かまど』(法政大学出版局、2004年1月)
内田律雄「竈神と竈の祭祀」(『季刊考古学』87、2004年5月)
荒井秀規「竈神と墨書土器」(『古代の信仰と社会』六一書房、2006年10月)
桐原健「竈神祭祀について」(『博古研究』54号、2017年10月)

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