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久々紀若室葛根神

読み
くくきわかむろつなねのかみ
ローマ字表記
Kukukiwakamurotsunanenokami
別名
若室葛根(計数注)
登場箇所
上・大年神の系譜
他の文献の登場箇所
旧 冬記若室葛根神(地祇本紀)
梗概
 大年神の系譜中に見える。羽山戸神が大気都比売神を娶って生んだ、八神(若山咋神・若年神・若沙那売神・弥豆麻岐神・夏高津日神・秋毘売神・久々年神・久々紀若室葛根神)のうちの第八。
諸説
 大年神の系譜中の神々については、農耕や土地にまつわる神を中心としたものと捉えられ、民間信仰に基づく神々とする説や、大国主神の支配する時間・空間の神格化とする説がある。渡来系の神々が含まれているところには、渡来系氏族の秦氏の関わりが指摘されている。また、この系譜の、須佐之男命・大国主神の系譜から接続される本文上の位置に不自然さが指摘されており、その成立や構造について、秦氏の関与や編纂者の政治的意図が論じられている。一方、『古事記』全体の構成からこの位置に必然性を認める説もある。
 大年神の系譜中に羽山戸神の子孫の系譜が派生して特立されているが、その系譜には何らかの特別な意義があると考えられる。この神々の性格は、耕作から収穫までの一年の農耕の模様を意味する神々であるという説があり、その名義や誕生の順序を農耕の次第の反映として捉える解釈が試みられている。また、本来はそれぞれ成立背景を異にする神々であったのが、新嘗祭を背景に統合化されたものとする説がある。
 久々紀若室葛根神の名義は、新築の家屋にまつわるものと解されている。「久々紀」のククは久々年神と同じく茎、キは木で、建築の材木の長く伸びたさまと解する説がある。「若室葛根」は、『日本書紀』顕宗紀の室寿の詞に「築き立つる稚室葛根」と見える。「葛根」の読みは、『日本書紀』の古訓にカツネの読みがあるが、大殿祭祝詞に「此の敷き坐す大宮地は、底つ磐根の極み、下つ綱根」とあり「古語に、番繩の類、之を綱根と謂ふ」と注されているのを参考して、ツナネの読みが採られることが多い。新築の家屋において、材木をすべて綱で結び固めることから、その綱を重視した言葉で、新築の家屋を意味するという説や、新嘗祭用の新室の神格化とする説、また、「久久紀」を祭域を示す棒杭のようなものと捉え、その中に神聖さや生命力あるいは聖域を示すための「葛」が掛けられた新室を神格化したものと解する説がある。ほかに、秋の収穫が終わりその収納物を蔵する穀物庫の中に安まる稲魂を表すという説もある。
 農耕の次第を表す羽山戸神の子神の最後に当たって、祭りの場に関わる神が生まれることにおいて、この系譜の農耕祭祀との関わりが注目され、新嘗祭を背景とした成立論が論じられている。
参考文献
倉野憲司『古事記全註釈 第三巻 上巻篇(中)』(三省堂、1976年6月)
西郷信綱『古事記注釈 第三巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年8月、初出1976年4月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
三谷栄一『日本文学の民俗学的研究』(有精堂、1960年7月)
日野昭「穀物神と土地神―大年神の系譜について―」(『仏教文化研究所紀要』(龍谷大学)18集、1979年6月)
上田正昭「大年神の系譜」(『古代伝承史の研究』塙書房、1991年5月、初出1980年4月)
軍司洋二「古事記・大年神神裔条の儀礼的背景」(『國學院大學大学院文学研究科論集』13号、1986年3月)
福島秋穗「「大年神と其の子孫に関わる記事」をめぐって」(『紀記の神話伝説研究』同成社、2002年10月、初出1995年10月)
志水義夫「大年神系譜の考察」(『古事記生成の研究』おうふう、2004年5月、初出1997年10月)

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