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大多麻流別

読み
おほたまるわけ/おおたまるわけ
ローマ字表記
Ōtamaruwake
別名
大島
登場箇所
上・国生み神生み
他の文献の登場箇所
紀 大洲(四段本書・一書六・九)
旧 大多麻流別(陰陽本紀)
梗概
 伊耶那岐・伊耶那美二神の国生みにおいて、大八島国に付随して生んだ六島のうちの、大島の別名。原文は「麻」の字の下に「上」の声注がある。
諸説
 「大島」は、瀬戸内海に位置する、周防国の大島(山口県大島郡周防大島町の屋代島)に比定されている。この島は、『万葉集』の天平八年六月の遣新羅使の歌に、「周防国玖河郡の麻里布の浦を行く時に」詠んだ歌「筑紫道の可太の大島しましくも見ねば恋しき妹を置きて来ぬ」(15・3634)、また「大島の鳴門を過ぎて再宿を経ぬる後に」詠んだ歌として「これやこの名に負ふ鳴門の渦潮に玉藻刈るとふ海人娘子ども」(15・3638)があり、瀬戸内海航路上の重要な寄港地であった。他に、同じく瀬戸内海の芸予諸島の大三島に比定する説もある。
 大多麻流別の名義は、「多麻流」を「溜る」に解して、瀬戸内海の鳴門の渦潮を乗り切るために、多くの船舶が集まり留まることから「大溜る」といったかとする説や、「多麻流」を船の停泊の意に取り、同じく渦潮を乗り切るのにこの島に船を停泊させたことによるかとする説、また、水が大いに溜まる港湾の様子を表したものかとする説がある。
 神名の「麻」字には上声の声注が附されているが、音仮名に附された声注の働きは、音調の表示によって読者の理解を一定の方向に導くものとする説があり、ここは、「多麻」を「玉」に解するのでなく「多麻流」ひとまとまりで「溜る」の意に解すべきことを示しているとする説がある。
 「別」という称号は古代の人名に見られ、岐美二神の生んだ島の名前にワケ・ヒコ・ヒメとつくのは擬人的な命名であると論じられている。国生みの伝承の中で、島に擬人名を持つ『古事記』の伝承は天武天皇朝以後の新しい形態であると論じられているが、「別」のつく神名の成立については、歴史上の「別」の性格とからめて論じられており、大化改新前後までに形成されていた皇子分封の思想、すなわち、『古事記』『日本書紀』で景行天皇が諸皇子に諸国郡を封じたのが「別」の起こりとしているように、「別」が天皇や皇子の国土統治を象徴するようになっていたことに基づく命名で、七世紀以後にできたものとする説がある。一方、大化以前の実在の姓や尊称という見方を否定し、ワクという分治の意味の動詞から発して、天皇統治の発展段階にふさわしい称号として採用、ないし創作されて伝承上の神名や人名に対して附加されたものと見なし、『古事記』の編集理念に基づいた称号体系の一環と考える説もある。
 また、『古事記』の大八島国誕生譚に付随する六島誕生の伝承については、これを大八島国誕生譚より遅れて成立し附加された後次的要素とし、大宝年以後の遣唐使の南路航路の開発を反映させて創作された神話とする説がある。
 大島は、『古事記』の伝および『先代旧事本紀』の二種の伝では大八島に含まれていないが、一方で、『日本書紀』四段本書・一書六・九では、大八島の一つに大島が誕生しており、一書一・七・八・十には誕生自体が語られていない。『日本書紀』の諸伝のうち、大島が大八島の一つとして誕生しているものは、淡路島が「胞」となって大八島から除外されている伝であることが指摘されていて、大島が大八島に編入された原因は、そうして除かれた淡路島の分、一島を新たに加えて大八島の島数を八に合せるためとする説がある。伝承成立の前後関係としては、『日本書紀』で、大島が大八島として誕生する伝は、大島の誕生が語られない伝よりも新しいものとし、さらに、そこからやがて大島が大八島にふさわしくないと見なされるようになった結果、『古事記』『先代旧事本紀』の、大島が大八島に含まれずに誕生する伝が発生したとする説がある。
参考文献
倉野憲司『古事記全註釈 第二巻 上巻篇(上)』(三省堂、1974年8月)
西郷信綱『古事記注釈 第一巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年4月、初出1975年1月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
神野志隆光・山口佳紀『古事記注解2』(笠間書院、1993年6月)
松村武雄『日本神話の研究 第二巻』(培風館、1955年1月)第三章
佐伯有清「日本古代の別(和気)とその実態」(『日本古代の政治と社会』吉川弘文館、1970年5月、初出1962年1~3月)
川副武胤「「日子」(二)「国」「倭」「別」の用法」(『古事記の研究』至文堂、1967年12月)
服部旦「続「国生み神話」批判―島生みの場―」(『中央大學國文』12号、1968年10月)
荻原浅男「大山津見神と大三島―古事記国生みの「大島」は大三島か―」(『古事記年報』14、1971年9月)
小松英雄『国語史学基礎論(2006簡装版)』(笠間書院、2006年11月、1973年1月初版)第4章
荻原千鶴「大八嶋生み神話の〈景行朝志向〉」(『日本古代の神話と文学』塙書房、1998年1月、初出1977年3月)
荻原千鶴「六嶋生み神話の形成と遣唐使」(『日本古代の神話と文学』塙書房、1998年1月、初出1977年8月)

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