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建比良鳥命

読み
たけひらとりのみこと
ローマ字表記
Takehiratorinomikoto
別名
-
登場箇所
上・うけい
他の文献の登場箇所
紀 武日照命(崇神紀六十年七月)/武夷鳥(崇神紀六十年七月)/天夷鳥(崇神紀六十年七月)
旧 武日照命(天孫本紀、天皇本紀)
祝 天夷鳥命(出雲国造神賀詞)
姓 天夷鳥命(左京神別中)/天日名鳥命(山城国神別)
神名式 天日名鳥命神社(因幡国高草郡)/神阿麻能比奈等理神社(出雲国出雲郡)
梗概
 天照大御神と須佐之男命とのうけい(誓約)の段に見える。天之菩卑能命の子で、出雲国造・無耶志国造・上菟上国造・下菟上国造・伊自牟国造・津島県直・遠江国造らの祖神。
諸説
 『古事記』では、天之菩卑能命の子で、国造らの祖神として登場しているが、『日本書紀』の同じ場面では、天穂日命(記の天之菩卑能命)が国造らの祖神とされ、建比良鳥命は出てこない。崇神紀に、武日照(たけひなてり)命という神名が見られ、別名を武夷鳥(たけひなとり)・天夷鳥(あめひなとり)といい、語形の類似や伝承の関係性から建比良鳥命と同神とも考えられている。
 建比良鳥命の名義は、「建」の字は「健」に通じ、猛々しい意、「比良」は境界の意で異郷を表すと捉え、勇猛な異郷(出雲国)への境界を飛ぶ鳥と解する説がある。また、武日照命の別名のヒナテリを神名の原形と捉え、天上から降って辺鄙を平定した功を讃えた名とする説や、ヒナトリを原形と捉え、日の鳥の意と解する説がある。
 朝廷で新任の出雲国造が奏聞した出雲国造神賀詞(『延喜式』)では、出雲臣らの遠祖である天穂比命が、天神の使者となって地上の様子を視察し、子の天夷鳥命と布都怒志命を派遣して荒ぶる神々を鎮圧させ、国作らしし大神(大国主神)を媚び鎮めた、とあり、天夷鳥命は国譲りに功績のあった神とされている。この伝承は、『古事記』の、伊都之尾羽張神の子・建御雷神に天鳥船神を副えて出雲に派遣したという伝承と重なることが指摘されている。一方、『日本書紀』九段本書や遷却祟神の祝詞(『延喜式』)では、天上から最初に遣わした天穂日命が、大己貴神に媚びて三年経っても復命しなかったため、次いでその子の大背飯三熊之大人(別名、武三熊之大人)遣わしたが、やはり父に従って復命しなかった、という伝承になっている。天穂日命の子神であることから、天夷鳥命と大背飯三熊之大人とを同神とみる説もある。
 『日本書紀』崇神天皇六十年七月己酉条には、武日照命が天から将来して納められたという出雲大神の宮の神宝が天皇に献上されたことをめぐって、出雲臣の遠祖・出雲振根と弟・飯入根との間に起こった事件が記されている。この話は、出雲国造が神賀詞を奏聞して神宝を天皇に献上する儀礼と関係する伝承とも考えられ、出雲大神の宮の神宝とは、出雲国造神賀詞の伝承の中で、天夷鳥命が地上に降って大国主神を鎮定した際に用いられた呪具のことだとする説もある。
 『新撰姓氏録』に、天穗日命の子・天夷鳥命(天日名鳥命)の後裔とされる出雲宿禰や出雲臣が見える。出雲臣は、意宇郡を本拠として出雲国造を世襲した豪族であり、出雲宿禰も、出雲臣が宿禰姓を賜って出た氏族である(『続日本紀』延暦十年九月丁丑条)。
 建比良鳥命は元来、出雲国造の祖神であったと考えられるが、『古事記』の系譜では、出雲国造のみならず各地の国造らまでもがその後裔として記されている。これは、各地の諸豪族の出自を、その代表的存在であった出雲国造の系譜中に統合することで、個々の豪族が服属していった地方支配の歴史的過程を、国譲り神話の一回的な出来事として神話的にまとめたものとする説がある。
参考文献
西郷信綱『古事記注釈 第二巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年6月、初出1975年1月)
倉野憲司『古事記全註釈 第三巻 上巻篇(中)』(三省堂、1976年6月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
井上光貞「国造制の成立」(『井上光貞著作集 第四巻』岩波書店、1985年7月、初出1951年11月)
小林信夫「天夷鳥考―雷神信仰の側面的考察―」(『國學院雜誌』57巻2号、1956年5月)
水野祐「出雲文化の東漸―出雲と東国との文化交聯について―」(『出雲神道の研究』神道学会、1968年9月)
三谷栄一「出雲神話の生成―記紀と『出雲国風土記』との関連について―」(『日本神話の基盤』塙書房、1974年6月、初出1969年10月)
松前健「天穂日命の神話と出雲国造家」(『松前健著作集』第8巻、おうふう、1998年5月、初出1970年5月)
三谷栄一「天孫降臨神話と天穂日命の誕生」(『日本神話の基盤』塙書房、1974年6月、初出1970年11月)
西郷信綱「国譲り神話」(『西郷信綱著作集 第1巻』平凡社、2010年12月、初出1972年11月)
新野直吉「古代出雲の国造」(『出雲学論攷』出雲大社、1977年1月)
佐伯有清『新撰姓氏録の研究 考証篇 第三』(吉川弘文館、1982年7月)
高嶋弘志「出雲国造の成立と展開」(『出雲世界と古代の山陰(古代王権と交流7)』名著出版、1995年2月)
菊地照夫「出雲国造神賀詞奏上儀礼の意義―神宝の検討を中心に―」(『出雲世界と古代の山陰(古代王権と交流7)』名著出版、1995年2月)
青木紀元『祝詞全評釈』(右文書院、2000年6月)
瀧音能之「「出雲国造神賀詞」の神話」(『出雲古代史論攷』岩田書院、2014年2月、初出2012年3月)
大谷光男「出雲臣の遠祖天穂日命神社の鎮座地―『出雲国風土記』からみた―」(『二松学舎大学東アジア学術総合研究所集刊』43集、2013年3月)

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