神名データベース

神名データベース凡例

角杙神

読み
つのぐひのかみ/つのぐいのかみ
ローマ字表記
Tsunoguinokami
別名
-
登場箇所
上・初発の神々
他の文献の登場箇所
紀 角樴尊(三段一書一)
旧 角樴尊(神代系紀)/角龍魂尊(神代系紀)
梗概
 神世七代の第四代で、活杙神と対偶を為す男神。
諸説
 角杙神は、次に成った女神、活杙神と対偶をなす男神で、名義や神格に共通性がある。『日本書紀』では第三段一書にのみ、「角樴(つのくひ)尊」「活樴(いくくひ)尊」として見えている。
 角杙神の名義について、ツノは、薄・葦・真菰などの芽立ちをいうとする説や、角のように堅く突起している様をいうとする説がある。芽立ちをツノという例としては、『和名類聚抄』(二十巻本)に「菼〈音毯。和名、阿之豆乃〉蘆之初生也」、「菰首 味甘冷〈和名、古毛布豆呂。一云、古毛豆乃〉」とあるアシヅノ、コモヅノや、『後拾遺和歌集』(1・44)「難波潟浦吹く風に波たてばつのぐむ蘆の見えみ見えずみ」とあるツノグムなどがある。クヒは、地面に打ち込む杭のこととする説や、地中から植物が生えることとする説がある。植物について言う例は、景行記の「其の小竹の刈杙(かりくひ)に足をきり破れども」、『万葉集』(16・3846)「僧を戯り嗤ふ歌一首」の「法師らが鬢の剃り杭」、あるいは『江家次第』(巻第三・女叙位)に「切杭(きりくひ)」と呼ばれる申文のことがあり、それを一条兼良の『江次第鈔』に「樹杭より若立を生ずるが如きなり」と説明しているなどの例がある。
 この対偶神の神格は、クヒの解釈に従って異なった理解がされている。クヒを、打ち込む杭と解する立場からは、古代の湿地農業では土どめの柵や杭が重要であったことから、その湿地の固成にまつわる神とする説や、村落や家屋の境界に打ち込まれる木の枝や棒杭の風習に関連づけて、悪霊邪気の侵入を防ぐ防塞神とする説、或いはそうした棒杭を依り代として降臨する神の形象化とする説などがある。クヒを、植物の生え出る様と解する立場からは、生命力の象徴と捉え、神体の形成過程において出現しようとする最初の形がわずかに顔を出すことの比喩的表現とする説がある。
 『古事記』における神世七代の意義については、伊耶那岐神・伊耶那美神の誕生を到達点として、そこに到る過程を神々の生成によって発展的に表現したものと捉える解釈が多い。その過程の意味する所は、(1)国土の形成を表すとする説、(2)地上の始まりを担う男女の神の身体(神体)の完成を表すとする説、(3)地上に於ける人類の生活の始原を表すとする説などがある。
 この対偶神の位置付けとしては、(1)の立場からは、宇比地邇神・須比智邇神で国土が固まったことを受けて、角杙神が神の原形となる杭の発生、活杙神がその活動を表すとする説があり、(2)の立場からは、宇比地邇神・須比智邇神で生じた原質の泥・砂から神の形が初めて発生することを表すとする説がある。
 『新撰姓氏録』に、「角凝命」「角凝魂命」「天角己利命」といった神名が見え、同神かという説もあるが、定かではない。
参考文献
山田孝雄『古事記上巻講義 一』(志波彦神社・塩釜神社古事記研究会編、1940年2月)
倉野憲司『古事記全註釈 第二巻 上巻篇(上)』(三省堂、1974年8月)
西郷信綱『古事記注釈 第一巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年4月、初出1975年1月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
『古事記(日本の文学 古典編 1)』(金井清一校注・訳、ほるぷ出版、1987年7月)
神野志隆光・山口佳紀『古事記注解2』(笠間書院、1993年6月)
井上光貞『日本の歴史1 神話から歴史へ』(中央公論社、1965年2月)
大野晋「記紀の創世神話の構成」(『仮名遣と上代語』岩波書店、1982年2月、初出1965年8月)
益田勝実「幻視―原始的想像力のゆくえ―」『火山列島の思想』(筑摩書房、1968年7月)
井手至「古事記創生神話の対偶神」(『遊文録 説話民俗篇』和泉書院、2004年5月、初出1978年3月)
金井清一「神世七代の系譜について」(『古典と現代』49号、1981年9月)
神野志隆光「「神代」の始発」(『古事記の達成』東京大学出版会、1983年9月、初出1982年)
佐伯有清『新撰姓氏録の研究 考証篇 第三』(吉川弘文館、1982年7月)
神野志隆光「ムスヒのコスモロジー―『古事記』の世界像―」(『古事記の世界観』吉川弘文館、1986年6月)
金井清一「神世七代(『古事記』の〈神代〉を読む)」(『國文學 解釈と教材の研究 』33号、1988年7月)
西宮一民「構造論的解釈と文脈論的解釈―冒頭の創世神話を中心として―」(『古事記の研究』おうふう、1993年10月、初出1989年12月)
神田典城「対偶神系譜形成についての一考察」(『古事記・日本書紀論叢』群書、1999年7月)
宮本明子「伊邪那岐・伊邪那美の婚姻―神世七代についての考察」(『日本文学論叢(法政大学大学院)』30巻、2001年3月)
『古典基礎語辞典』(大野晋編、角川学芸出版、2011年10月)
勝俣隆「宇比地邇神から伊邪那美神までの十神誕生の神話的解釈」(『上代日本の神話・伝説・万葉歌の解釈』おうふう、2017年3月、初出2013年3月)

神名データベース トップへ戻る

先頭