國學院大学 「古典文化学」事業
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石長比売
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石長比売
読み
いはながひめ/いわながひめ
ローマ字表記
Iwanagahime
別名
-
登場箇所
上・邇々芸命の結婚
他の文献の登場箇所
紀 磐長姫(九段一書二・六)
旧 磐長姫(皇孫本紀)/石長姫(皇孫本紀)
梗概
大山津見神の娘で、木花之佐久夜毘売の姉。邇々芸命が木花之佐久夜毘売を見初め、大山津見神に婚姻の許可を求めたところ、父神は大いに喜び、姉である石長比売を添えて多くの結納品と共に差し出した。
しかし、邇々芸命は石長比売が非常に醜いことを理由に送り返し、木花之佐久夜毘売とのみ一夜の交わりを持った。父神はこれを恥じて、娘を二人とも差し上げたのには理由があったと明かす。父神は、「二人の娘を献上する際、石長比売を召し使えば、天つ神である御子の命は岩の如く不動となり、木花之佐久夜毘売を召し使えば、木の花の如く栄える、とうけい(誓約)をしていたので、木花之佐久夜毘売だけを留めたということは、天つ神である御子の命は桜の花のように短くなるだろう」と告げた。
これが、今に至るまで天皇たちの寿命が長くない理由であると伝える。
諸説
名義は、岩のように長久な命を意味するとされる。一般に、美の象徴・脆弱の代表としての木の花を人格化した木花之佐久夜毘売との対比として、恒久・永遠を象徴するものとしての岩石が挙げられたとされている。また、石長比売・木花之佐久夜毘売は山の神の娘であることから、神婚により山の神の呪力を得る、という構想が宮廷内にあったとの指摘もある。
石長比売を返したことによる短命起源譚は、主に東南アジアを中心に分布するバナナ型神話との類型に属することが指摘されており、定説となっている。なお、バナナ型神話は、神によって石とバナナが与えられるが、人間は石は食べられないという理由で拒否し、バナナを選び取ってしまう。ゆえに、人間は石のような永遠の命を得られず、バナナ(植物)のように短い命を与えられてしまったというものである。
『古事記』では、天皇に限定して短命の起源を語っているのに対し、『日本書紀』の一書第二では天皇の子孫としての「其生児」、またその異伝では「顕見蒼生」「世人」と、人間一般の短命起源を説いており、こちらのほうが神話としては本来的なものであったと考えられる。つまり、もとは民間説話であって、人間一般の死の起源説話について語られていたのが邇々芸命と結びつくことによって変形したと考えられている。
物語後半部で、木花之佐久夜毘売は一夜で身ごもったことを邇々芸命に疑われたために、うけい(誓約)をして産屋に火をつけて子を生む。この出産譚が記紀のすべての所伝に掲載されているのに対し、天皇の短命起源譚は『古事記』と、『日本書紀』の一書第二のみに限られていることから、記紀における石長比売の神話は後から挿入されたものであるとする説や、「天皇等の御命」が短い由縁譚として語られるようになったのは、天皇が天神の子孫であるという系譜意識を示すためであり、〈神の代〉から〈人の代〉へ連続する古事記の文脈を暗示するものであるという説などもある。
なお、短命の原因についても、『古事記』では大山津見神によるうけい(誓約)によるものであるのに対し、『日本書紀』の一書第二とその異伝では磐長姫の呪詛によるものと異なっているため、各伝承の系統的な関係や、これがどのような意図を持って記紀に組み込まれているかが問題とされる。
また、記紀の垂仁天皇条にある、円野比売命の説話との共通性には、『古事記』編纂上の意図があると推測されている。円野比売は、姉妹たちと一緒に天皇に召し上げられたものの、醜さを理由に返されたことで自死した。石長比売の説話と円野比売の説話は、片方が返され片方が結婚するという説話の構造が一致するだけではなく、遣われる表現にも共通性が見られる。「甚凶醜」という表現は、『古事記』において、石長比売と円野比売の説話の2箇所にのみ用いられているため、「凶醜」という表現には、女性の醜さが尋常ではないことを強調する意図があるとされる。
対して、「見畏而」という表現は『古事記』の中で数例確認され、『古事記』独自の心情描写であるとされる。「見畏而」とは、上位者にとって意外な下位者の実態が感知されたとき、上位者が下位者をおそれ、遠ざかろうとする意識であるとする説や、「荒ぶる神」に対して「相手の普通ではない姿に恐れおののく意」であり、それをかしこみ、まつることが新しい秩序の再生になるという説、木花之佐久夜毘売と石長比売の「美」と「醜」は、対極であるがどちらもこの世のものでない、異界の両面性であるという点で通じており、その親和と違和の落差が「見畏」であるとする説などがある。
この表現は石長比売の説話には見られるが、円野比売の説話には用いられていないことから、円野比売は説話の中で神ではなく女性として扱われており、対して神に使われる表現である「見畏而」が石長比売に用いられるのは、永久不変という神性を表象したものであるという説などがある。
さらに、石長比売や円野比売の説話を姉妹連帯婚の習俗にもとづくものとする説や、姉妹奉献の神婚とみる立場に立った上で、「醜」は巫女としての呪力の衰え・欠陥であり、神の拒絶にあったものとする説もある。しかし、これらの説話から当時の習俗を取り出すことに対して否定的な意見もある。
参考文献
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