國學院大学 「古典文化学」事業

天之冬衣神

読み

あめのふゆきぬのかみ

ローマ字表記

Amenofuyukinunokami

別名

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登場箇所

上・須賀の宮

他の文献の登場箇所

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梗概

　須佐之男命の系譜に見える。淤美豆奴神と布帝耳神との間に生まれた神で、刺国若比売を娶って大国主神を生んだ。

諸説

　『古事記』の出雲神話中に記された須佐之男命の系譜と大国主神の系譜は、もとは一つに連続した記事だったといわれる。大年神の系譜を含めた三系譜全体の構造が問題となるが、本文の不審や、系譜と物語との内容の食い違いなど、疑問点が多い。系譜中の神々の多くは他文献に見えず、『古事記』でも事跡が語られないため、それぞれの意義や関係性が明らかにしがたい。全体の解釈としては、大国主神の性格付けが天皇系譜との対比によって系譜に示されているとする説や、国土神から水の神へとその誕生を物語る出雲土着の神話が骨子になっているとする説、神の祝福を受けて豊かな自然環境が出現することを望む人々の願いが反映されているとする説がある。
　天之冬衣神の名義は、文字通り冬に用いる衣服と解されている。キヌは、一般に衣類の生地を指していうことが多いことが指摘されている。フユが「増ゆ」も示唆し、衣類の豊饒を称えた名であると解する説もある。「天之」は天上界から賜ったものとする説があるが、先に見える天之都度閉知泥神と同じく、国つ神であるのに「天之」が冠してあるのが不審とする意見もある。名称を、単に、前に来る淤美豆奴神・布怒豆怒神・布帝耳神からの音韻上の連鎖に基づくに過ぎないとする説もある。
　『日本書紀』八段一書四で素戔嗚尊が草薙剣を天上に奉献するのに遣わした「五世の孫、天之葺根（あまのふきね）神」をこの神と同一と見る説もあり、代数の一致や音変化によって説明されている。
　また、神名を誤写によるものと見なし、元来「由布衣神」（木綿の衣の神格化）だったものが直前の布怒豆怒神・布帝耳神（この二神の名も誤写による成立とする）に引かれて顛倒し、さらにあとに続く刺国大神・刺国若比売・大国主神と「国」を神名に含む神々との対応を意識して「天之」が付け加えられた結果、「天之冬衣神」の名になったのではないかという成立過程も論じられている。
　『粟鹿大明神元記』（和銅元年（708）上申とされる粟鹿神社の祭神の系図）には「天布由伎奴」とある。

参考文献

西郷信綱『古事記注釈　第二巻（ちくま学芸文庫）』（筑摩書房、2005年6月、初出1975年1月）
倉野憲司『古事記全註釈　第三巻　上巻篇（中）』（三省堂、1976年6月）
『古事記（新潮日本古典集成）』（西宮一民校注、新潮社、1979年6月）
『古事記（日本思想大系）』（青木和夫・石母田正・小林芳規・佐伯有清校注、岩波書店、1982年2月）
中西進『中西進著作集　１　古事記をよむ　一』（四季社、2007年1月、初出1985年11月）
菅野雅雄「神々の系譜」（『菅野雅雄著作集　第四巻　古事記論叢4　構想』おうふう、2004年7月、初出1982年9月）
菅野雅雄「須佐之男命の系譜」（『菅野雅雄著作集　第四巻　古事記論叢4　構想』おうふう、2004年7月、初出1984年3月）
瀬間正之「『粟鹿大明神元記』は上代語資料となり得るか―本文とその国語国文学的批判―」（『古典研究』16号、1989年7月）
福島秋穗「布怒豆怒神・布帝耳神・天之冬衣神について 」（『紀記の神話伝説研究』同成社、2002年10月、初出1999年7月）
姜鐘植「スサノヲ系譜「十七世神」について―系譜と説話の関わりという観点から―」（『井手至先生古稀記念論文集　国語国文学藻』和泉書院、1999年12月）
福島秋穗「八嶋士奴美神より遠津山岬多良斯神に至る神々の系譜について」（『紀記の神話伝説研究』同成社、2002年10月、初出2002年1月）
谷口雅博「『古事記』上巻・出雲系系譜記載の意義」（『日本神話をひらく「古事記」編纂一三〇〇年に寄せて―第九回：フェリス女学院大学日本文学国際会議―』、2013年3月）