器物データベース > 天若日子の派遣

【解説】殯と石枕

天若日子の葬送の描写は、埋葬までの一定の期間、遺体を安置する習俗「殯(もがり)」を反映している。古墳時代の殯をうかがわせる考古資料に「石枕」がある。石枕とは、主に五世紀代、茨城県南部から千葉県北部を中心に分布する葬送用具で、滑石など柔らかい石材で作られた遺体の枕である。遺体の頭を据える部分の周囲には、二つの勾玉を背中合わせに付けた形の装飾具「立花(りっか)」を立てる。東寺山石神二号墳(千葉県)から出土した石枕の立花には鼠の歯形が残り、この石枕は鼠が齧(かじ)れる環境に置かれていたことを示している。天若日子の殯では「翠鳥(そにどり、かわせみ)を御食人とし」とあり、遺体には食膳を供えている。石神二号墳に埋葬された遺体も、古墳への埋葬までの間、頭を石枕に据えて安置され、食膳を供えられていたのではないだろうか。その食膳を目当てに来た鼠が、立花に歯形を残していったのか、こう考えることも可能だろう。

胸を射貫かれる天若日子
(古事記学センター蔵『古事記絵伝』より)

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