國學院大学 「古典文化学」事業
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キサ貝比売
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キサ貝比売
読み
きさかひひめ/きさかいひめ
ローマ字表記
Kisakaihime
別名
-
登場箇所
上・根の堅州国訪問
他の文献の登場箇所
出雲風 支佐加比売命(嶋根郡)/枳佐加比売命(嶋根郡)
梗概
大穴牟遅神(大国主神)が八上比売と結婚した後、兄弟の八十神に迫害を受けて、伯岐国の手間の山本で大石に焼き着けられて殺された際、神産巣日之命の命令で、キサ貝比売と蛤貝比売とが遣わされて大穴牟遅神を復活させた。キサ貝比売が大穴牟遅神の身体をかきあつめ、蛤貝比売が待ち受けて「母の乳汁」を塗ると、立派な男となった。
キサの字は「刮+虫」に作るが、諸説ある。
諸説
神名のキサにあたる一字目が古来難解である。写本によって表記にも揺れがあり、「䚯+虫」「討+虫」など書かれているが、ともに字書に無い字である。そこで誤写を考え、「蚶」の字の「甘・虫」を上下に組んだ字体を伝写の過程で写し誤ったものとして、「蚶」の字の古訓に依ってキサと読み、今の赤貝のこととする説や、本文の文脈を考え合せて、こそげる意味の「刮」の字と「虫」の字とを上下に組み合わせた造字を元の形に想定し、大国主神の屍体をこそげて集める「キサゲ集めて」という本文の表現から、やはりキサと読む説がある。
「蚶」の字は『和名類聚抄』に『唐韻』を引いて「蚶は蚌の属、状、蛤の如く円くして厚し。外に理有り、縦横なり。」とあり、キサの和名を挙げる。赤貝の殻の表面には、刻(きざ)がはっきりあるのでこの名があるという。
大穴牟遅神は医療の神としての性格が指摘されており、その文脈上、キサ貝比売と蛤貝比売とが大穴牟遅神を蘇生した話も、医療との関係が考察されている。そこで、この話は貝の薬効による火傷の民間療法を伝えたものとする説があるが、対して、貝による火傷の治療法の見えはじめるのは、本草書の類では16世紀、明代まで下り、『古事記』撰録の時代には対応する証拠がないという批判もある。一方、「母の乳汁」による蘇生行為に着目して、火傷の治療ではなく、乳汁の持つ生命力が表わされているものとする説がある。火傷の民間療法とする説では、キサ貝比売は、その貝殻粉を削り集めた神とされるが、一方、文章の分析から、削り集めたのは大石に焼き着いた大穴牟遅神の死体であるとする見方がある。いずれにしても、この命名は、本文中のキサグという動詞と関係づけられ、当場面におけるこの神の役割と密接に関わっていると考えられる。
『出雲国風土記』嶋根郡加賀郷条に「支佐加比売命」、同郡加賀神崎条に「枳佐加比売命」「御祖支佐加比売命社」が見え、また蛤貝比売になぞらえられる「宇武賀比売命」が嶋根郡法吉郷条に見える。これらを『古事記』と同神に比定する見方もあるが、内容に関連が見いだされないため、無関係の伝承とみる説もある。また、『出雲国風土記』で二神がともに神魂命(神産巣日神)の御子とあることについて、これは、古事記での二神が神産巣日神に遣わされる立場にあることから子として系譜づけられたもので、『出雲国風土記』の撰者が出雲の元々の伝承と古事記のこれらの神名とを接合したものとする説がある。
参考文献
倉野憲司『古事記全註釈 第三巻 上巻篇(中)』(三省堂、1976年6月)
西郷信綱『古事記注釈 第三巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年8月、初出1976年4月)
『神道大系 古典編一 古事記』(小野田光雄校注、神道大系編纂会、1977年12月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
神野志隆光・山口佳紀『古事記注解4』(笠間書院、1997年6月)
出雲路修「「よみがへり」考」(『説話集の世界』岩波書店、1988年9月、初出1980年12月)
神野志隆光「読む キサカヒヒメとウムカヒヒメ」(『日本文学』34-5、1985年5月)
及川智早「古事記上巻に載る大穴牟遅神蘇生譚について―「乳」の力能―」(『国文学研究』97、1989年3月)
大鳥壽子「『古事記』の大穴牟遅蘇生譚をめぐって―貝を使った火傷の治療―」(『帝塚山学院大学日本文学研究』34、2003年2月)
坂田千鶴子「月母神キサカヒヒメと射日神話―消されたオオナムチの系譜―」(『国文学』52巻3号、2007年3月)
多田一臣「母の甜き乳をめぐって」(『古代文学の世界像』岩波書店、2013年3月、初出2012年11月)
小野諒巳「■(刮+虫)貝と蛤貝および母の乳汁について―薬としての性格を中心に―」(『古事記學』5号「『古事記』注釈」補注解説、2019年3月)
韓神
木俣神
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