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櫛八玉神

読み
くしやたまのかみ
ローマ字表記
Kushiyatamanokami
別名
-
登場箇所
上・大国主神の国譲り
他の文献の登場箇所
-
梗概
 大国主神の国譲りに際して、出雲国の多芸志の小浜に天の御舎を作って天の御饗を献る際、水戸神の孫である櫛八玉神が膳夫として奉仕に当たった。献上する時に、寿詞(鑚火詞)が唱えられ、櫛八玉神は鵜となって海の底の土を食い取って容器の八十びらかを作り、海布の茎で燧臼、海蓴の柄で燧杵を作って、それによって火を起こした。
諸説
 櫛八玉神の意味は、「櫛」は仮字で「奇(クシ)」の意、「玉」は手向けの意で、「八玉」を多くの御幣と捉える説がある。また、「八」は多数、「玉」は真珠の意で、海の霊力をもつ神を表すという説もある。なお、「玉」については魂の仮字とも解されている。魂とみる場合、櫛八玉神の行為を霊魂の発動とみて、一身に多くの霊魂をもち、さまざまな行為をなす神と解する説がある。
 国譲り神話では、梗概で示した場面に櫛八玉神が登場するが、この箇所は行為の主体やその対象となる客体が明確でないため、「天の御舎」の造築からの一連の解釈は様々に論じられている。諸説には、①天つ神が天の御舎を造築し、天照大御神・高木神の指令により櫛八玉神を膳夫に任じて大国主神に御饗を献ると解する説がある。この説は、天つ神側が主体(指令者)となり、大国主神に対して諸々の行動をしたという解釈になる。また、②大国主神が天の御舎の造築を行ったと捉え、その大国主神に対して櫛八玉神が自ら膳夫となって御饗を献ると解する説もある。これは、櫛八玉神自身が主体となって奉仕したという解釈になる。さらに、③大国主神が天の御舎を造築し、また櫛八玉神を膳夫としたと捉え、天つ神に御饗を献ったと解する説もある。この説では大国主神を行為の主体と捉えるが、その背景には服属儀礼の食物供献とそのための建物(天の御舎)という考えがあり、大国主神が高天原側に服属するという解釈が念頭に置かれている。以上のように、行為の主体とその対象を誰と捉えるかによって、神話の解釈が大きく異なってくる。
 また、作った燧臼と燧杵で火を鑚り出し、御饗を献上することを述べた時に寿詞(鑚火詞)が唱えられているが、通説では唱えた主体は櫛八玉神とされる。主体を櫛八玉神とみる場合、祭りをおこなう過程を寿詞(鑚火詞)によって自ら語っていることから、櫛八玉神をシャーマンに通じる存在と捉える説がある。そして、櫛八玉神に祭られることは、大国主神が「大神」(祭られる存在)に変身することにつながるともいわれる。ただし、近年では寿詞(鑚火詞)を唱えた主体は大国主神とみる説もある。この場合には、櫛八玉神が鵜になったりする諸々の行為も寿詞の内容であるという見解もある。
 梗概にあるように、櫛八玉神の行動は海に関連するものである。これについて、水戸神の孫からの連想が働いているとも、あるいは逆に海との関連のために水戸神の孫と見なされたとも説かれている。また、櫛八玉神が登場するのは、浄火を鑚りだして神饌を調理する膳夫としての家業を受け継いできた出雲の別火氏の祖神とされる神だからという見解がある。この他に、「出雲国造神賀詞」の「倭大物主櫛瓺玉命」、『古語拾遺』の「櫛明玉命」などと神名が類似しており、関連性があることから出雲の神の色彩が濃いという見解もある。
参考文献
本居宣長『古事記伝』(大野晋編『本居宣長全集』第10巻、筑摩書房、1968年11月)
次田潤『古事記新講』(明治書院、1956年7月、初版1924年11月)
倉野憲司『古事記全註釈 第四巻 上巻篇(下)』(三省堂、1977年2月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
『古事記(日本思想大系)』(青木和夫・石母田正・小林芳規・佐伯有清校注、岩波書店、1982年2月)
『古事記(新編日本古典文学全集)』(山口佳紀・神野志隆光 校注・訳、小学館、1997年6月)
益田勝実「古事記における説話の展開」(高木市之助編『古事記大成 文学編』平凡社、1957年4月)
矢嶋泉「『古事記』〈国譲り神話の一問題〉」(『日本文学』37巻、1988年3月)
青木紀元「鑚火詞私見」(中村啓信・菅野雅雄・山崎正之・青木周平編『梅澤伊勢三先生追悼 記紀論集』続群書類従完成会、1992年3月)
アンダソヴァ・マラル「古事記におけるオホクニヌシとシャーマニズム―「天の御饗」の考察を通して―」(『佛教大学大学院紀要(文学研究科篇)』38、2010年3月)
管浩然「『古事記』国譲り神話の「治」について」(毛利正守監修『上代学論叢』和泉書院、2019年5月)
アンダソヴァ・マラル「古事記と日本書紀-ヤマトからみたオホナムチと出雲」(『ゆれうごくヤマト もうひとつの古代神話』青土社、2020年1月)

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