國學院大学 「古典文化学」事業
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御年神
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御年神
読み
みとしのかみ
ローマ字表記
Mitoshinokami
別名
-
登場箇所
上・大年神の系譜
他の文献の登場箇所
拾 御歳神(御歳神)
旧 御年神(地祇本紀)
神名式 葛木御歳神社(大和国葛上郡)/御歳神社(大和国高市郡)
梗概
大年神の系譜中に見える。大年神が香用比売を娶って生んだ二神(大香山戸臣神・御年神)の第二。
諸説
御年神の名義について、「御」は美称で、「年」は穀物や稲の意とされる。御年神の父を大年神といい、大年神の孫には若年神や久々年神という神名も見られる。これらの「年神」は稲や穀物の神と考えられるが、トシの第一義を「稔り」にあると考えて、特に、稲の豊饒をもたらす神格を表すとする説もある。
『延喜式』践祚大嘗祭には、大嘗祭に際して斎郡斎場の八神殿で祭られる八神中に「御歳神」の神名が見え、穀物の豊穣にまつわる神格であることが確かめられる。また、『延喜式』の祈年祭の祝詞では、「御年の皇神等」に対して祝詞を奏上されているが、この「御年の皇神」について、この御年神を指すとする説と、御年神に限らず祈年祭に預かる各地の神々全体を指すとする説がある。
祈年祭の祝詞には「御年の皇神等」への供物として白馬・白猪・白鶏が示されているが、『延喜式』四時祭上にも、神祇官が祭る神社への祭料として、「御歳社」に白馬・白猪・白鶏各一を奉納するとあるのが確認できる。「御歳社」について、平安時代前期の『令集解』の祈年祭の注釈(古記)は、「葛木鴨」の社を「御年神」だとしている。「葛木鴨」は、大和国葛上郡の葛木御歳神社に比定する説や、同郡の鴨都波八重事代主命神社に比定する説がある。
平安時代初頭成立の『古語拾遺』に、御年神の祭式の起源説話が伝えられている。その伝承では、神代の頃、大地主神が耕作の日に牛肉を田人に食べさせていたことを、御歳神が怒り、蝗を放ってその田を枯らす祟りを起こした。そこで、白猪・白馬・白鶏を献じて謝罪すると、御歳神がその災いを解く方法を教えたので、その通りに行うと、田は豊かに実った。これが、今の神祇官が白猪・白馬・白鶏によって御歳神を祭ることの起源である、という。この御歳神の祭祀は考古学的にも検討されている。群馬県前橋市の柳久保遺跡では、水田耕作に際して疫神を祟りを防ぐための祭祀をしたと推測される墨画土器や遺構が見つかっており、その状況が『古語拾遺』の御歳神の祭祀方法と酷似することが指摘されている。また、千葉県芝山町の庄作遺跡からは「歳神奉進」と書かれた墨書土器も見つかっていて、年神の祭祀が実際に各地で行われていたことをうかがわせる。ただし、これらを『古事記』の御年神と同一視できるかどうかは明確でない。
民俗的には、正月に家ごとに年神を迎えて祭る風習が全国に見られる。信仰のあり方は土地によってさまざまであるが、田の神の性格が認められる事例が多く見られ、農耕神として捉えられることに注意される。精霊的な農耕神であった原初の年神が元になって、人格神として成立したのが『古事記』の年神たちだとする説もある。
御年神の起源について、年神系の神を祭る神社の現在の分布を手がかりに、年神の信仰は弥生時代の北部九州から発生して列島に広がったと推定し、「御年神」という呼称を、畿内政権の祈年祭で祭る神の総称として起こったものとみる説がある。また、『古事記』の御年神は出雲の神々の中に系譜づけられているが、元来は大和の葛城の農耕神で、祟り神でもあったと考え、崇神朝頃、それを慰撫するために祈年祭が起こって御年神の祭祀が始まったとする説もある。
参考文献
上田正昭「大年神の系譜」(『古代伝承史の研究』塙書房、1991年5月、初出1980年4月)
志水義夫「大年神系譜の考察」(『古事記生成の研究』おうふう、2004年5月、初出1997年10月)
西山徳「祈年祭の研究」(『増補上代神道史の研究』国書刊行会、1983年11月、初出1949年11~12月)
水野正好「柳久保水田址出土墨画土器の周辺」(『柳久保遺跡群I』前橋市埋蔵文化財発掘調査団、1985年3月)
西宮秀紀「葛木鴨(神社)の名称について」(『律令国家と神祇祭祀制度の研究』塙書房、2004年11月、初出1991年11月)
西牟田崇生「八神の一考察―大嘗祭斎院八神と神祇官西院八神について―」(『國學院雜誌』91巻7号、1990年7月)
横田健一「葛木御歳神社の生贄と祈年祭」(『飛鳥の神がみ』吉川弘文館、1992年4月)
藤原修『田の神・稲の神・年神』(岩田書院、1996年6月)
高島英之「墨書土器村落祭祀論序説」(『出土文字資料と古代の東国』同成社、2012年8月、初出2000年5月)
青木紀元『祝詞全評釈』(右文書院、2000年6月)
中村修「御年神の形成過程」(『古代史の海』20号、2000年6月)
河合章「『古語拾遺』御歳神記事の位置付け」(『中京国文学』21号、2002年3月)
河合章「『古語拾遺』御歳神記事の「牛宍」」(『中京大学 上代文学論究』10、2002年3月)
中村修「御年神・大年神の形成過程」(『日本書紀研究』24、2002年7月)
若井敏明「御年神と祈年祭」(『古代史の海』34号、2003年12月)
弥豆麻岐神
坐御諸山上神
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