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弥都波能売神

読み
みつはのめのかみ
ローマ字表記
Mitsuhanomenokami
別名
-
登場箇所
上・国生み神生み
他の文献の登場箇所
紀 罔象女(五段一書二・三・四)
旧 罔象女神(陰陽本紀)
祝 水神(鎮火祭)
神名式 弥都波能売神社(阿波国美馬郡)
梗概
 伊耶那美神が迦具土神を生み、陰部を焼かれて病み臥した際に生まれた神々(金山毘古神・金山毘売神・波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神・弥都波能売神・和久産巣日神)のうち、尿から生まれた二神の第一。
諸説
 伊耶那美神が病み臥した際に嘔吐物・排泄物から生まれた神々の意義については主に、火山の噴火を表わすとする説、焼畑など農耕の反映とする説、五行思想の影響とする説、鎮火の伝承に由来するという説、香具山の祭祀に基づくとする説がある。『日本書紀』の各所伝との構想の相異も問題となり、それらの理解のしかたによって各神名の解釈にも幅が生じている。また、神生みの段で伊耶那岐神・伊耶那美神の生んだ神々の誕生が「生める」と表現されるのに対して、これらの神々は「成れる」として物から成ったことが示されており、二神が生んだ神々の数として示された「参拾伍神」の内には含まれないとする見方がある。
 弥都波能売神の名義は、ミツハのミを水と解して、水つ早、あるいは水つ走の意と取り、灌漑の水の源を司る神とする説や、灌漑用の水を走らせる女神とする説、ミヅハナと取り(『万葉集』19・4217に「始水(はなみづ)」とあり、出水の先端の意とされる)、出始めの水の女の意で、火の暴威鎮圧と灌漑用水の神格を兼ねるとする説、水際(みつきは)の転で、水害のない清泉を表象したやさしい女神として崇拝された神とする説がある。また、水つ蛇(蛇の古語「はは」)の意で、ミヅチ(蛟)と同類の神とする説もある。
 その性格は、尿から生まれていることから、屎から生まれた埴安の神(波迩夜須毘古神・波迩夜須毘売神)と合わせて下肥の表象と捉え、農耕にまつわる神とする説がある。他に、この一連の神々を火山の噴火の表象と捉えて、伊耶那美神の尿が火山の活動に伴う温泉や冷泉の涌出を表していると見る説がある。
 ミツハは水神の一種で、『古事記』には闇御津羽(くらみつは)神が見える。『和名類聚抄』には「水神 左伝注云魍魎(罔両二音。日本紀私記云、水神。美豆波)。水神也」とある。『日本書紀』ではミツハノメは「罔象女」と表記され、埴山姫(大便から化成)と対になっている。同書五段一書四では『古事記』と同じく小便から成ったと示され、一書二・三では「水神」と称されている。また、神武天皇即位前紀(戊午年九月)には、祭りを行った際に「水を名けて厳罔象女と為ひ(罔象女、此には瀰菟破廼迷(みつはのめ)と云ふ)」とある。「罔象」の字は漢籍で水の精を表わす。『淮南子』氾論訓に「水生罔象」とあり、高誘注に「水之精也。国語曰、竜网象也」とある。この解釈を和語ミツハにも及ぼして、ミツハを水を掌る竜神とする説もある。また、ミツチ(蛟、鮫)が水中に棲む荒ぶる霊を指すのに対して、ミツハは河川や井戸などの水の霊を指すと考える説もある。
 鎮火祭祝詞では、黄泉の国へ趣いた伊耶那美神が現世に戻って、火神に対抗すべき「水の神・匏・川菜・埴山姫」の四種の物を生んでいるが、この水の神が弥都波能売神に当たるとする見解もある。
 『延喜式』神名帳・阿波国美馬郡には「弥都波能売神社」に加えて「波爾移麻比弥神社」も見える。また、下総国相馬郡に「蛟■(虫+罔)(みつち)神社」が見え、「罔象女大神」を祭っている。
参考文献
山田孝雄『古事記上巻講義 一』(志波彦神社・塩釜神社古事記研究会編、1940年2月)
倉野憲司『古事記全註釈 第二巻 上巻篇(上)』(三省堂、1974年8月)
西郷信綱『古事記注釈 第一巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年4月、初出1975年1月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
『式内社調査報告書 第十一巻 東海道6』(式内社研究会編、皇学館大学出版部、1976年9月)
『式内社調査報告書 第二十三巻 南海道』(式内社研究会編、皇学館大学出版部、1987年10月)
虎尾俊哉『延喜式 上(訳注日本史料)』(集英社、2000年5月)
折口信夫「水の女」(『折口信夫全集』第二巻、中央公論社、1965年3月、初出1927年9月)
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志賀剛「弥都波能売神」(『式内社の研究 第1巻 概論・南海道』雄山閣、1987年3月、初出1957年5月)
安津素彦「国生みの段三十五神考」(『神道思想論叢』白帝社、1972年9月、初出1958年4月)
金子武雄「万物の創成」(『古事記神話の構成』南雲堂桜楓社、1963年10月)
野口武司「『古事記』神生みの段の左註「神參拾伍神」」(『古事記及び日本書紀の表記の研究』桜楓社、1978年3月、初出1974年6・8・10月)
毛利正守「古事記上巻、島・神生み段の「参拾伍神」について」(『国語国文』45巻10号、1976年10月)
菅野雅雄「豊宇気毘売神の出現」(『菅野雅雄著作集 第三巻 古事記論叢3 成立』おうふう、2004年5月、初出1977年6月)
大林太良「ミツハノメの神話」(『東アジアの王権神話―日本・朝鮮・琉球― 』弘文堂、1984年1月、初出1979年11月)
西宮一民「「神参拾伍神」考」(『古事記の研究』おうふう、1993年10月、初出1992年4月)
毛利正守「古事記上巻、岐美二神共に生める「嶋・神参拾伍神」考」(『萬葉』144号、1992年9月)
青木周平「伊耶那美命化成の表現」(『青木周平著作集 上巻 古事記の文学研究』おうふう、2015年3月、初出1992年12月)
谷川健一『古代海人の世界』(小学館、1995年12月)

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