國學院大学 「古典文化学」事業
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鳴女
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鳴女
読み
なきめ
ローマ字表記
Nakime
別名
雉
登場箇所
上・天若日子の派遣
他の文献の登場箇所
紀 無名雉(九段本書)/雉(九段本書・一書一・六)/無名雌雉(九段一書六)
旧 鳴女(天神本紀)/雉(天神本紀)
梗概
葦原中国平定のために派遣された天若日子が八年間復奏しなかったため、その理由を問う使者として遣わされた雉。鳴女は高天原より下ったが、天佐具売が天若日子にこの鳥は鳴く声がひどく悪いので射殺しようと告げたことから、天若日子の矢で射殺された。このために雉は還ってこなかったが、今のことわざに「雉の頓使(ひたつかひ)」というのはここから来ている、とある。
諸説
鳴女の名義は「鳴く女」。雉が「鳴女」として登場するのは、後の天若日子の葬儀の際に、「雉を哭女とし」という記述に関連があると説かれることが多く、天若日子の死を暗示しているという見解もある。なお、天若日子の葬儀に河鴈(雁の一種)・鷺・翠鳥(カワセミ)・雀・雉といった鳥たちが参列していることについては、天若日子の死が雉(鳴女)に起因しているからという説、天若日子が雉(鳴女)の命を奪った報いであると見る説など鳴女との関連から論じる説もある。『日本書紀』では鳴女は「無名雉」とあり、これは「鳴」を「無」と解したためと解釈される。
雉が使者として選ばれた理由については、漢籍の雉の例から、ものをよく聞き操を守る鳥だからという説、人君に過失がある場合に飛んできて鳴き、天より譴告を伝える鳥だからという説がある。また、鳥が人の言葉を通わせる使者であるという信仰に基づくという説や「雉の頓使」という諺に合わせたためという説などもある。
「雉の頓使」は、行ったきりで戻らない雉の習性からの諺である。『古事記』ではこの諺の起源として還矢の神話を記しているが、『日本書紀』(九段本書・一書一)では「反(返)矢畏るべし」の由縁と記していることから、本来「雉の頓使」と還矢は別の話であったとも考えられる。
還矢については、神に向けて射た矢が投げ返されて射手に当たるという「ニムロッドの矢」の話型にあたるといわれており、雉はその話型を成り立たせる装置として機能していると指摘される。その射られる理由については、天若日子が女性とともに過ごす豊穣神的な性格を有していて、朝の訪れを嫌って鳥の声を憎んだからとする見解がある。また、『常陸国風土記』逸文の伊福部岳の記事に雉が登場しており、農耕儀礼に関わる雷(神)の案内役であることから、雉は農耕神と捉えられること、そして矢の的にした餅が白鳥(神や霊魂の象徴)になる『豊後国風土記』速見郡の説話と考え合わせ、もともと雉を射ることは農耕儀礼と関わるとする見解がある。なお、このような本来的な呪術的意味は、記紀では天若日子の反逆を示し、死をもたらすための手段になってしまっているともいわれる。この他、『古事記』では鳴女の「声」を天佐具売が「音」と語る。この天佐具売の介入により、天つ神の詔命であった鳴女の声(言葉)は、言葉として意味をなさない音とみなされたという説もある。雉が矢に射られることについては、「雉」の字が「矢」と「隹」で構成されていることからの発想であると言語遊戯的な解釈もある。
参考文献
西郷信綱『古事記注釈 第三巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年8月、初出1976年4月)
倉野憲司『古事記全註釈 第四巻 上巻篇(下)』(三省堂、1977年2月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
松村武雄『日本神話の研究 第三巻』(培風館、1955年11月)第14章
守屋俊彦「天若日子の神話について」(『記紀神話論考』雄山閣、1973年5月、初出1957年10月)
吉井巌「天若日子の伝承について」(『天皇の系譜と神話 二』塙書房、1976年6月)
福島秋穗「アメワカヒコの葬儀に関わる鳥について」(『紀記の神話伝説研究』同成社、2002年10月、初出1999年1月)
松田浩「雉はなぜ射られたか―アメワカヒコ神話の想像力と言語遊戯と―」(『古代文学』48号、2009年3月)
越野真理子「鳥の声を憎む―古事記「返し矢」説話の「朝床」」(『学習院大学上代文学研究』39号、2014年3月)
松田浩「天若日子と雉の「言」と : 『古事記』の語る「言」の秩序をめぐって」(『古事記年報』59、2016年3月)
泣沢女神
夏高津日神
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