國學院大学 「古典文化学」事業
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佐比持神
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佐比持神
読み
さひもちのかみ
ローマ字表記
Sahimochinokami
別名
一尋和邇
登場箇所
上・海神の国訪問
他の文献の登場箇所
紀 一尋鰐(十段一書三)/一尋鰐魚(十段一書三)
紀 一尋鰐魚(十段一書四)
梗概
海幸山幸の段で、火遠理命(山幸彦)を綿津見神の宮から上つ国(地上の国)に送った一尋わに。
綿津見大神が全てのわにを招集して、誰が何日で地上へ送れるかを尋ねたところ、他のわにたちが自分の身長の長短に応じて日限を提示する中で、一尋わには「一日で送って帰ってこれる」と申し上げたので選ばれ、頸に火遠理命を載せて、約束通り一日で送った。わにが帰路に就こうとした時、火遠理命が自分の身につけていた紐小刀をわにの首につけて送り返したので、佐比持の神と呼ばれるようになった。
諸説
「サヒ」とは鋤または剣の意。ここでは紐小刀、すなわち紐付きの懐剣を持っているので「佐比持」と言う。鮫の鋭利な歯を刃物に見立てたとする説や、古くは鰐そのものをサヒと言ったとする説がある。なお、古義の「紐小刀」は紐をほどくためのクジリ(觿)を指したが、上代には刀剣の意に変化していたとの説もある。また、歯牙を刀剣に見立てるのではなく、背中に刀剣状のものを負う、ギンザメのこととする説や、刀を「首にかけた」ことから、シャチの体表の白い刀剣状の模様を指していると主張するものもある。
「尋」は両手を広げた長さである。『古事記』では、和邇たちは自分たちの身長に応じて日限を提示しており、『日本書紀』十段一書四に、八尋鰐(鰐魚)は八日かかり、一尋鰐(鰐魚)は一日で行くとあることから、「ヒトヒロワニ」だから「ヒトヒ」のうちに送る、とする説もある。
「和邇」がどのような動物を指しているのかについては諸説ある。近世までは『和名類聚抄』の記述から爬虫類のワニと捉えられていた。近代以降も、比較神話学の観点で、この説話が南方由来の起源をもつことから、この神話に登場するのは現地に生息する爬虫類のワニであるとする説や、逆に、この類話の起源は『古事記』であって、日本から南方に伝播したとする説、日本にかつてワニがいたかもしれないとする説、豊玉毗売が和迩の姿になって出産する描写に着目し、「匍匐委虵(ハヒモゴヨフ)」は爬虫類にふさわしいとする説や、など、現在でもワニ説を支持する向きもある。しかしながら、それに対して「モゴヨカ」は駿馬や龍にも用いられる表現であり、爬虫類に限らないとする説や、むしろサメの動きに近いと主張する説、日本には爬虫類のワニは住んでおらず、またサメのことを「わに」と呼ぶ地方があることから現代では魚類のサメ説が台頭し、主流となっている。
『日本書紀』十段一書四にも一尋鰐魚は登場するが、ここでは海神の駿馬として登場し、往路に天孫(火折尊)を乗せて海神の宮殿まで運ぶ。また、『日本書紀』神武前紀戊午年六月の記述には、神武天皇の軍が熊野の神邑で暴風に遭ったとき、神武天皇の兄である稲飯命が剣を抜いて海中に身を投じて、鋤持神になった、とある。
参考文献
西郷信綱『古事記注釈 第四巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年10月、初出1976年4月)
西郷信綱『古事記注釈 第三巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年8月、初出1976年4月)
倉野憲司『古事記全注釈 第四巻 上巻篇(下)』(三省堂、1877年2月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
山口佳紀・神野志隆光校注・訳『新編日本古典文学全集1 古事記』(小学館、1997年6月)
西岡秀雄「兎と鰐説話の傳播(上)」(『史学』29巻2号、1956年8月)
西岡秀雄「兎と鰐説話の傳播(下)」(『史学』29 巻3号、1956年12月)
黒沢幸三「ワニ氏の伝承」(『日本古代の伝承文学の研究』1976年6月、初出1972年12月~1976年2月)
西宮一民「和邇」とは何か」『古事記の研究』(おうふう、1993年10月、初出1978年3月)
福島秋穗「稲羽の素菟譚について」『記紀神話伝説の研究』(六興出版、1988年6月、初出1987年10月)
尾畑喜一郎編『古事記事典』(おうふう、1988年9月)
神田典城「ワニ小考」(『国語国文論集』22号、1993年3月)
坂元宗和「3本の「紐小刀」―サヒ甲の原義を尋ねて―」(『國學院雜誌』95巻5号、1994年5月)
青木周平編『日本神話事典』(大和書房、1997年6月)
三浦佑之『口語訳古事記[完全版]』(文芸春秋、2002年6月)
三浦佑之「神話のなかの人と動物 西のワニと東のサケと」(『人と動物の日本史4 信仰のなかの動物たち』吉川弘文館、2009年4月)
及川智早「「ワニ(「和邇」・「鰐」)」とはなにをさすのか-『古事記』・『日本書紀』に載る存在の近代における解釈と受容を中心に-」(『國學院雜誌』112 巻11号、2011年11月)
佐度島
狭依毘売命
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