國學院大学 「古典文化学」事業
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宇迦之御魂神
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宇迦之御魂神
読み
うかのみたまのかみ
ローマ字表記
Ukanomitamanokami
別名
-
登場箇所
上・須賀の宮
他の文献の登場箇所
紀 倉稲魂命(五一書六)
旧 稲倉魂命(陰陽本紀)/稲倉魂神(地祇本紀)/宇迦能御玉神(地祇本紀)
祝 屋船豊宇気姫命(大殿祭)/宇賀能美多麻(大殿祭)
梗概
須佐之男命の系譜中に見える。須佐之男命が、大山津見神の娘、神大市比売を娶って生んだ二神(大年神・宇迦之御魂神)の第二。
諸説
宇迦之御魂神の名義について、ウカは、豊宇気毘売神(とようけびめのかみ)や『日本書紀』に登場する保食神(うけもちのかみ)などのウケに通じ、食物の意とされる。『日本書紀』の五段一書六では、伊奘諾尊と伊奘冉尊とが飢えた時に「倉稲魂(うかのみたま)命」を生んでいる。『日本書紀』の表記の「倉」の字は、穀物を蔵する穀倉のことと解されるが、倉は稲の霊の住みか・神座であったと捉える説がある。
食物に関する神は、『古事記』では和久産巣日神や大宜都比売神などが見えるが、これらは五穀の生育や起源にまつわる神と考えられる。対して、宇迦之御魂神の神格については、『日本書紀』神武天皇即位前紀で、祭祀に供える食物を「厳稲魂女(いつのうかのめ)」と称したとあることや、『和名類聚抄』が「稲魂」の読みを「宇介乃美太万(うけのみたま)、俗云、宇加乃美太万(うかのみたま)」と説き、『延喜式』の大殿祭の祝詞に、「稲の霊」を「宇賀能美多麻」(うかのみたま)だとする注記があることなどから、この神は、稲の神格、特には収穫された稲の穀霊と考えられている。
大殿祭においては、木の霊である屋船久久遅命と共に稲の霊の屋船豊宇気姫命が祭られるが、『延喜式』祝詞では、その神について、「是は稲の霊なり。俗の詞に、宇賀能美多麻。今の世、産屋に辟木・束稲を以ちて戸の辺に置き、乃(また)米を以ちて屋の中に散らす類なり」と注記しており、当時の習俗を伝えている。
宇迦之御魂神はまた、『延喜式』所載の山城国紀伊郡「稲荷神社三座」(現・伏見稲荷大社)の祭神の一柱とされる。当社は渡来系氏族の秦氏による創祀とされ、その祭神については、古来、異伝が多いが、稲倉魂命を祭神の一柱に挙げることは諸伝に共通していることから、創建以来の祭神であると推定されている。「稲荷神社」という社名は鎮座地の稲荷山に由来するもので、『二十二社註式』などの中世の書物の中で『山城国風土記』として引用されている秦氏による伝承には、稲荷山の地名が「いねなり」に由来すると語られているが、やはり稲に関する信仰に基づいていることがうかがわれる。
民俗学の知見からは、各地で納戸や倉に祭る稲の神の信仰の源流が宇迦之御魂神にあると捉える説がある。元は、刈り取った稲を積んで穀霊を祭った祭祀が、やがてその祭場を倉に移したという祭祀の変遷が想定されており、『日本書紀』などで「倉稲魂」の字が当てられるのは、収穫された稲の穀霊を倉に祭ったことを表す、という見方がされている。また記紀段階における宇迦之御魂神の神格について、既に農民の生活からは離れて、国家が地方支配の拠点とした屯倉や正倉の政治的なあり方を反映した神格に発展したものと捉える説もある。
参考文献
倉野憲司『古事記全註釈 第三巻 上巻篇(中)』(三省堂、1976年6月)
西郷信綱『古事記注釈 第二巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年6月、初出1975年1月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
八木充「政治的クラの成立」(『國史論集(一)』讀史會、1959年11月)
八木充「倉稲魂命考」(『山口大学文学会志』13巻1号、1962年10月)
柳田國男「倉稻魂考」(『定本柳田國男集』31巻、筑摩書房、1970年12月)
八木充「倉稲魂神の成立」(『朱』12号、1971年11月)
今井啓一「稲荷大神その五社のうち四大神に及ぶ」(『朱』15号、1973年6月)
佐野正巳「スサノヲノミコトの系譜―大年神の神裔―」(『講座日本の神話5 出雲神話』有精堂、1976年10月)
『式内社調査報告書 第一巻 京・畿内1』(式内社研究会編、皇学館大学出版部、1979年2月)
三谷栄一「稲荷の神の性格―『二十二社註式』と同書所載『山城国風土記』とをめぐって―」(『記紀万葉集の世界』有精堂、1984年5月、初出1981年7月)
石塚尊俊「倉稲魂神と納戸神」(『朱』27号、1983年6月)
友田吉之助「宇迦之御魂神の原義」(『朱』30号、1986年6月)
菅野雅雄「須佐之男命の系譜」(『菅野雅雄著作集 第四巻 古事記論叢4 構想』おうふう、2004年7月、初出1984年3月)
松前健「稲荷明神の原像」(『松前健著作集第3巻 神社とその伝承』おうふう、1997年12月、初出1988年10月)
神尾登喜子「稲荷神考―豊饒の神名と地名―」(『古代中世文学論考』6集、2001年10月)
遠藤慶太「市と稲荷の母神と―神大市比売にかかわって―」(『朱』51号、2008年2月)
『伏見稲荷大社御鎮座千三百年史』(伏見稲荷大社御鎮座千三百年史調査執筆委員会編、伏見稲荷大社、2011年10月)
伊予之二名島
菟神
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