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万幡豊秋津師比売命

読み
よろづはたとよあきつしひめのみこと/よろずはたとよあきつしひめのみこと
ローマ字表記
Yorozuhatatoyoakitsushihimenomikoto
別名
-
登場箇所
上・天孫降臨
他の文献の登場箇所
紀 栲幡千千姫(九段本書)/万幡豊秋津媛命(九段一書一)/万幡姫(九段一書二・七)/栲幡千千姫万幡姫命(九段一書六)/千千姫命(九段一書六)/天万栲幡千幡姫(九段一書七・八)/栲幡千幡姫(九段一書七)
拾 栲幡千千姫命(天中の三神と氏祖系譜、吾勝尊)
旧 栲幡千々姫萬幡姫命(天神本紀)/萬幡豊秋津師姫命(天神本紀)/栲幡千々姫命(天神本紀)
梗概
 高木神(高御産巣日神)の娘で、天忍穂耳命との間に、天火明命と天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇々芸命の二神を生む。
諸説
 神名の意味について、「万幡」のハタは織った布のことで、ヨロヅハタは多くの布の意とされる。「豊秋津師」のトヨは美称。アキヅは、とんぼで、『万葉集』に「あきづ羽の袖」(3・376)、「あきづ領巾(ひれ)」(13・3314)とあるように、良質な布をとんぼの羽に喩えた表現だとする説がある。シは不詳であるが、技師の意で織女を指すとする説がある。また、トヨアキヅを「大倭豊秋津島」と同様、豊穣の意とする説もある。
 記紀ともに天孫降臨神話に登場する。伝により神名に揺れはあるが、いずれもハタという語が共通しており、高御産巣日神の系譜を引く女神で、天孫・邇々芸命の母という性格はおおむね一致している。
 記紀の天孫降臨神話の諸伝に見られる、「万幡」を冠する神名と「栲幡」を冠する神名とは、元来は同神の別名ではなく、異なる女神であったとする説が提示されている。「万幡」の神は、アマテラス系と称される系統の伝承内の、天照大御神と関わりを持った神で、「栲幡」の神は、タカミムスヒ系と称される系統の伝承内の、高御産巣日神に関わりを持った神であったと考えられるという。天照大御神と高御産巣日神とが共に登場する『古事記』の天孫降臨神話はアマテラス系とタカミムスヒ系との中間的な所伝とされるが、万幡豊秋津師比売命というアマテラス系の神名が採用されているのは、高御産巣日神よりも天照大御神を神話の中心に位置づける『古事記』の意図を反映したものと見ることができる。
 なお、『古事記』の本文では、この神は邇々芸命の出自を述べるための注記のような形で取り上げられているに過ぎないが、文章の不備など不審な点が見られることなどから、当神名を含むこの記述を、『古事記』の成立以後に付加されたものと見る説もある。
 平安時代初期に編纂された『皇太神宮儀式帳』には、「万幡豊秋津姫」が「天手力男神」と並んで、「天照坐皇太神」(天照大御神)と同殿に祭られていることが記されている。これにもとづいて、「万幡」の神を、元来、天照大御神の信仰と結び付いた機織りの女神であったとする説がある。
参考文献
西郷信綱『古事記注釈 第四巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年10月、初出1976年4月)
倉野憲司『古事記全註釈 第四巻 上巻篇(下)』(三省堂、1977年2月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
吉井巌「火明命」(『天皇の系譜と神話』塙書房、1967年11月、初出1966年11月)
北野達「誓約神話の形成とオシホミミの命」(『古事記神話研究―天皇家の由来と神話―』おうふう、2015年10月、初出1984年12月)
月野文子「「幡梭皇女」考―難波王朝と皇室神話における機織女の系譜―」(『古代研究』25号、1993年1月)
青柳まや「天孫の母―ヨロヅハタヒメに関する考察―」(『古代中世文学論考』第33集、2016年8月)

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