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稲田宮主須賀之八耳神

読み
いなだのみやぬしすがのやつみみのかみ
ローマ字表記
Inadanomiyanushisuganoyatsumiminokami
別名
足名椎
登場箇所
上・須賀の宮
他の文献の登場箇所
紀 稲田宮主神(八段本書)/稲田宮主簀狭之八箇耳(八段一書一・二)
旧 稲田宮主神(地祇本紀)
梗概
 足名椎神の別名。足名椎神の娘、櫛名田比売と結婚した須佐之男命が出雲国の須賀に宮を作った際、その宮の首に任じられた足名椎神にこの名が授けられた。
諸説
 この神名は、『古事記』では足名椎に授けられた別名であるが、『日本書紀』第八段の本書では、脚摩乳(足名椎)・手摩乳(手名椎)をともに宮の首とし、二柱に「稲田宮主神」の名が授けられている。一書一では、稲田媛の親を「稲田宮主簀狭之八箇耳」とし、授けられた名ではなく元々の名前のように記している。一書二では、父の名を「脚摩手摩」、その妻の名を「稲田宮主簀狭之八箇耳」とする。
 神名の意義について、「稲田宮主」の「稲田」は、地名と捉える説、櫛名田比売にちなむ宮殿名とする説、祭を行う稲田とする説がある。「宮主」はその宮(須佐之男命と櫛名田比売の住まい)の管掌者を表すとされる。稲田を祭る司祭者の意味とする説もある。「須賀」は須賀宮が立てられた土地の名とされ(島根県雲南市大東町須賀に比定される)、『出雲国風土記』大原郡の条に、須我山・須我の小川・須我の社が見える。「八耳」は難解であるが、「八」は日本の聖数で多数を表わす語、「耳」は霊の意もしくは神秘的な力を持った者の称号であるミを重ねた語などと解される。物知人の意で神主を表すとする説や、谷(=やつ)の霊の意とする説もある。その神格について、須我山から流れる須我川流域の水田開拓の祖神と捉える説もある。
 足名椎・手名椎の名が、須佐之男命の神話の中でも大蛇退治の部分に結び付いているのに対して、この神名は、須佐之男命と櫛名田比売との聖婚の場面に結び付いた名前とみられる。そのため、『日本書紀』の一書で、大蛇退治の場面で親の名前が既に「稲田宮主簀狭之八箇耳」となっている話は、その元来の形が変化して出来た内容ではないかと考えられている。一方で、「宮主」という名称が女性によく見られることから、本来は豊穣を掌る女神であったと推測し、「稲田宮主簀狭之八箇耳」を母神の名とする紀の一書二が、この話の古い形を留めているとする可能性も提示されている。
参考文献
倉野憲司『古事記全註釈 第三巻 上巻篇(中)』(三省堂、1976年6月)
西郷信綱『古事記注釈 第二巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房、2005年6月、初出1975年1月)
『古事記(新潮日本古典集成)』(西宮一民校注、新潮社、1979年6月)
『古事記(日本思想大系)』(青木和夫・石母田正・小林芳規・佐伯有清校注、岩波書店、1982年2月)
三品彰英「出雲神話異伝考」(『建国神話の諸問題』平凡社、1971年2月、初出1969年)
三谷栄一「出雲神話の生成―記紀と『出雲国風土記』との関連について―」(『日本神話の基盤』塙書房、1974年6月、初出1969年10月)
『出雲神話(シンポジウム 日本の神話3)』(学生社、1973年7月)
溝口睦子「記紀神話解釈のひとつのこころみ(上)―「神」概念を疑う立場から―」(『文学』1973年10月号、1973年10月)
吉井巌「大蛇退治、劔、玉」(『鑑賞日本古典文学 第1巻 古事記』角川書店、1978年2月)
大久間喜一郎「八俣の大蛇」(『古事記の比較説話学―古事記の解釈と原伝承―』雄山閣出版、1995年10月、初出1982年3月)
阿部真司「ヤマタノヲロチ神話―その「記定」と原態―」(『日本文学研究』29号、1996年4月)

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