江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第一〇首) 同し巻 原見王歌 河津鳴、甘南備河尓、陰所見、今哉開良武、山振乃花(一四三五) かはつなく、かみなびがはに、かけみえて、いまやさくらん、やまぶきのはな
聖武紀に、天平勝宝元年夏四月、無位原見王等、従五位下を贈らると みゆるなり〔一一ウ〕 これは奈良に都うつされて後、故郷の神かみ南な備び河の、さまをなつ かしみてよみ給へる成べし、かゝるしらべの高くすぐれたるはかたき也、 古今集に、今もかも、咲匂ふらん、橘の、小嶋崎をしまがさきの、山吹の花、は所をかえた るのみ、逢阪の、関の清水に、影みえて、今やひくらん、望月駒もちつきのこま、は少し巧 をそへたるにて、皆此姿をうつしたる也、もとつける所をしらん人、 万葉をなとか尊まざらん○かはづ鳴は其川のさまをいひて、歌のかざ りとせり、佐保さほ川、よしの川にも此詞を冠らしめたり、かみなみ川は、大 和国高市郡にあり、かみなび山とも社やしろとも又三室の山雷いかづちの岳おかともいへり