江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第二四首) 同し巻 冬ノ雑歌【四首の中】歌の左云、右柿本朝臣人麻呂之歌集出也、〔二一オ〕 足引乃、山道不知、白杜材、枝母等乎々尓、雪落者(二三一五) あしびきの、やまぢもしらず、しらかしの、えだもとをゝに、ゆきのふれゝば〔二一ウ〕
但一首或本云、三み方かたの沙さ弥み作ルこれは先人麻呂の家集の歌也、然るを 此上に、真ま木きむくのひばらもいまだ、雲居ねは、こまつが末うれゆ、沫雪なか るてふ歌、新古今に家持の歌とて春の部に入れ、且雲ゐねはの句 を、くもらねばと直したり、此詞は万葉にひとつある詞にて、後には雲ゐ ぬにといふ意なり、集中に秋立ていく日もあらねば、此ねぬるてふを、拾遺 集にいくかもあらぬにとて入られしは、古の詞をかへしはいかにぞやあれ ど、理はたがはず侍るを、右のくもらねばと直せしはいと違へり、且沫雪 とはいつにてもよむを、新古今集の頃よりは、春のことばとのみなりけ れば、春の歌としてあやまれしにや、此歌又人麻呂自詠にはあらず、又いかで 家持ならん 《上欄》雨雪なとの/ふるをなかる/とも万葉には/よめり 深き山路に雪にあひて、たづきもしらぬさまなり、且かしは葉ひろ なれば、雪のかゝれるさまのことなるものにて、はた深き山の木なれ ば、その所のやうにおもひやらる○足あし引ひきの山冠辞考に委し○枝も とをゝとは、雪に枝のとをゝと、たわむをいふ、たわゝとあるもたわ〳〵 の略にて同じことなり○白かしは古事記にも多くありて、山中の木也、 さて今本に杜材と書たるは誤字と見えたり、今考るに和名抄橿【和/名 加/之】爾雅ノ註云一名【音紐械之/見《二》刑罪具ニ《一》】同抄に械を天あま加か之し阿あ之し加か之しと訓た り、しかれば橿に拠なきにもあらず、又たゞ借字にて械の二字を用 たる草書を、誤りうつせし成べし