江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第二九首) 巻之十 夏寄ル《レ》花ニ 外耳、見筒恋牟、紅乃、末採花乃、色不出友(一九九三) よそにのみ、みつゝこひなん、くれなゐの、すゑつむはなの、いろにいてつゝ(ママ)〔二五ウ〕
呉藍の花は、茎の末なる房の中より、ちいさき鶏冠とさかのやうして、咲 出るをさしてつまみとる也、故に末つむ花といへり、さてそれが如く 色にあらはれては恋じよそ人のやうして、心にしたひてあらんとい へり、巻十一に忍には、こひて死ぬとも、みそのふの、鶏冠草花からあゐのはなの、色にいて めや、ともよめり○紅の末採花とことの実を云て、且詞うるはしきに、 かく後の人はいかでうるはしからんとて、物の実を取失ひなどしてよむ、 猶わろし、さるを万葉の歌を、ものおそろしきことにのみ思人多き や、実有てうるはしきを雅といふものをよき人の、常心もかくこそあ らめ、呉くれ藍なゐ韓から藍あゐ鶏冠草花からあゐのはななど同物也、巻三に吾宿に韓藍うえ 生おひし、かれぬとも、こりずてまたも、蒔んとぞ思ふ、又織殿式に、韓紅 花綾一匹、紅花大四斤云々又御園生の、から藍の、花のとよめるか心も 事も同しきを対へみるに、右のみつは同し物也【或人の今云鶏頭草と心得た/るはわろし、和名抄にも見えず、後〔二六オ〕 のものなり】 《上欄》万葉にはくれ/なゐからくれ/なゐてふ語/は有にしか/るを業平の/から紅に水く/くるとは今よ/めるをおもへは/今の京と思/ひての詞なり/凡くれなゐ/からくれなゐ/からあゐは/呉の藍韓の/藍てふ事也/からといふは/倭語也歌の/語もしかり/かくうつり/行時世をし/らては学は/明らかに得/かたし