江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第三九首) 巻之十八 越前国掾大伴宿祢池主求贈おこせたる歌【三首の中】 安必意毛波受、安流良牟伎美乎、安夜思苦毛、奈気伎和多流香、比登能登布麻泥(四〇七五) あひおもはず、あるらんきみを、あやしくも、なけきわたるか、ひとのとふまて
此さきは、此人越中掾にて、守は家持なりしを、後に越前掾となりて の後、相思ふ意をのぶるなるよし歌のはし詞にみゆ 君を恋ふるにつけて、人はいかなる物思ひするやと、あやしみとがむるま〔三一ウ〕 てに、つねに嘆息をしたるを、我をば思ひ給はしものをと也、平兼 盛の、忍ふれと、色に出にけり、てふ歌の下の句はこれをとりて、上をは 思ひの、色に言なせり、今はなげきといへは物思ふ時に、ながいきつく をいふなり○此時池主の贈れる三首の端に、各詞有て曰、ひとつに 古人言、又ひとつには属テ《レ》物ニ発ツ《レ》思ヲ、その次には所心歌と有て右の歌也、 又家持の答にも、右の詞各書て、第三には答《二》所心《一》即以《二》古人之ノ跡ヲ《一》代フ《二》 今日之意《一》とかゝれたり、是らを以て思ふに、右の贈答は皆、古の歌の 今日の意《一》に叶ふを贈り答へし也けり、仍て思ふに、此歌のさまも此度の 情とは見えず、古へ相聞の歌なるを、かりたるなり、よく歌のさまを考へ 知べきなり 《上欄》意の字を古/は於の字の/かなに用ひ/たりこゝも/しかなり後/人意のかな/に用ふは誤/なり