江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第七七首) 同じ巻 詠ル《二》不尽ノ山ヲ《一》歌【長歌の反歌也】 不尽嶺尓、零置雪者、六月、十五日消者、其夜布里家利(三二〇) ふしのねに、ふりおけるゆきは、みなづきの、もちにきゆれば、そのよふりけり
こは右の赤人の歌につゞけ挙たれど、長歌の詞もこれはいかめしくて、 実に不尽の山よむべきさまと聞え、此反歌も赤人の口つきならぬが上に、この 次に又赤人の作と端書せる歌のあればかた〳〵こと人の也、誰のよみけん知 られぬがをしきなり〔六〇ウ〕 みな月の望日は、夏の照日の極めたる盛なれば、此日にふしの雪の消ぬ るとみれば、やかて其夜にふりぬとなり、此山のよにあやしくも高きよし を、よくもとりなせしもの也、集中に越の立山をよめるに常夏に雪の 消ぬよしいへる如く、ことにふじのねには終に消せぬ雪もあれど、かく とりなすもひとつの事にて、昔人のたま〳〵に巧によめるは、しかいかめしく 面白して、所をも得て聞ゆるぞかし○六月をみなつきといふは、荷田かだの 東麻呂のいへる、十月を神無月かみなつきてふは雷かみのならぬ月なれば也【古は名をいはで/神とのみいひし は、雷神の事なり又雷の/上下を略しなどもいふなり】これに対ふるに、六月は神鳴月かみなりつきてふを略ける語也とも、 殊に此月ばかり雷の鳴はなく、あたれる考なり【みな月とかきて、ひでりの/ことゝ思ひたるは俗説なり】