万葉新採百首解ビューアー

江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による
『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。

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雑事〔六七オ〕
(第八七首)
巻之十六 謗《二》侫人《一》 奈良山乃、児手柏之、両面尓、左毛右毛、侫人之友(三八三六)
ならやまの、このてかしはの、ふたおもに、とにもかくにも、ねじけひとのとも



歌の左に、博士ナノユキフン大夫作《レ》之と記せり、此人は続日本紀に、養老
五年明経第二の博士、正七位上背奈キミ行文と有、又神亀四年には正
六位上と見えたり、懐風藻には背奈オホキとあり、こは天平九年に此甥背奈
福信等八人に、背奈王の姓を賜ひしより、行文にも王と書しか

このてかしはの表うらのわかちなければ、二おもてといへる、今の俗の衣
に表裏同じ物したるを、両面といふが如し、さてこれを侫人に譬るは、
此方へも彼方へもよきがほするが、よき事とおもへば下にいと異なる意有
ゆゑなり、巻廿に【下野国那、須郡上/丁大伴広成歌】布多富我美阿志気比等奈里阿多ふたふかみあしきひとなりあた
由麻比和我須流等伎尓佐伎母里尓佐須ゆまひわかするときにさきもりにさす、これは防人にさゝれざらん〔六七ウ〕
為に、其事とる人に幣を贈れる幣をうけながらさるべきかほにて
防人にさして、筑紫へやるをはら立て二面神といへれば、右の二面をおもひ
合すべし【神とはかり/に云のみ】○侫人をねぢけびとゝよめること、ねちけたる心なり
なといひたれば、尚昔よりいへる詞也けり、下に友といふは鵜かひかとも、ますら
をのとも、をとめがともなどいふ如く、其ともからをいへり○奈良山は奈良
の都辺の山にて、そこにこのかしはのありけん、此木は檜の葉こまやか
なるが如くにて、同じ根よりいと数々くきの側生て、皆上をさしつゝ繁
ければ、丸くこもりかなる物也、故に巻の廿【下総国千葉郡/太田部足人か歌】
加之波能保々麻例等阿夜奈加奈之美於枳弖加他加枳奴かしはのほゝまれとあやなかなしみおこてかたかこぬとよめる、
ふゝまれとの詞を合てみるべし、ふくまるは含む事にて、こもるといふ
に同じ然ば、そこは側柏のことをいふ説はよし

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