江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第九四首) 同し巻 遊テ《二》松浦河ニ《一》作歌 多麻之末能、許能可波加美尓、伊辺波阿礼騰、吉美乎夜佐 之美阿良波佐受阿利吉(八五四) たましまのこのかはかみにいへはあれときみをやさしみあらはさすありき
右同じ人肥前国、松浦の玉嶋河に遊へる時、魚つる美女に値て、其里家 などを問にいはざるよし序の条々にみゆ、さて贈る歌に、あさり〔七二ウ〕 するあまのこともと、人はいへど、見るにしらえぬ、うまひとのこら、と云るに 娘等が答たる歌、左のごとく此外の歌は巻ヲ披くにまかす、これらの様は此 巻に琴の娘子が贈り答へ、巻十六に竹取翁か九女に向ひてよめるなど の類にて、設て作れるものとみゆ 意は明らかなり○やさしみははづかしくて也【この辞の事は/すてにいへり】よき人にはぢて賤 き家を得あらはさずと也、此巻の下の貧究(ママ)問答の反歌に、よの中を うしとやさしと思へども飛たちかねつ、鳥にしあらねば、古今に何を して身のいたつらに老ぬらん、年のおもはん事ぞやさしき、此外後世 の物語などにもいへり、皆同じ意也後世風説などをやさしさへて〔七三オ〕 やさしき、心ともいふもさる人には、わかはぢらるゝゆゑにいひてなど同し 意なるたゞ人の上の様におもへるにや