江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第三三首) 巻之十一 寄テ《レ》物ニ陳フ《レ》思ヲ〔二七ウ〕 足日木之、山鳥乃尾乃、四垂尾乃、長永夜乎、一鴨将宿(二八〇二) あしびきの、やまどりのをの、しだりをの、なか〳〵しよを、ひとりかもねん
かく題を挙て、数十首の後に此歌あり、さて此巻是より上に、人丸 家集中に出てふこと二所注して、後にあれば、其家集の歌にはあ らざる家集に出と有語(ママ)ら、其人のよめるにもあらぬを、まして人丸 のとおもへるは、万葉を見ぬ人のわざなり なが〴〵しよを思ふ人と有たらはで、独ねんすらんかと歎入たる思ひを いへり、上の山鳥の尾は、なが〳〵しと云ん料なり○山鳥は集中に許た よめり、此歌のふたつの尾はかさねたるのみ、巻十(ママ)七に庭にはつ鳥どり可か雉けの 垂たり尾をの、乱みたれ尾をの、長きころも、おもほえぬかも、てふに同し、然るを上の 尾は、雄の意、下の尾は、尾也など云説は誤也、且しだり尾は、只しだりたる 尾のみ○巻八に足あし日ひ木き乃の山鳥こそは、峯むかいに、嬬問つまとひすといへ、これに〔二八オ〕 答へたてぬるよし、中世にも多くいひたれば、右の上の句は序にして、 譬をかねたるにやとも思ひしに、先に引たるかけのたりをてふも、只 序にて侍るをもて、今もたゞ序とのみするを、古意なるべき、古は古事 記などに片かた歌うたてふ体の如く、二句三句のみにていひはたしゝを、其のち 五句の調しらべを専とする世となりて尚意は下句にかつ〳〵有、依て上に 其こゝろにまどひなからん詞を設て、五句の調を起し、一首をもかざる なり、これを後世序歌と名つく 《上欄》庭鳥はかけろ/と鳴ぬともあ/れは鳴声に/よりてかけと/はいふ且くたか/けとは百済鶏/の意也こゝに/可雉と書は/仮字のみ