江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
目次を開く 目次を閉じる
(第一五首) 秋野尓波、伊麻己曽由可米、母能乃布能、乎等古乎美奈乃、波 奈尓保比見尓(四三一七) あきのには、いまこそゆかめ、ものゝふの、をとこをみなの、はなにほひみに
これも前の歌と同し度の歌なり、心は明らけし、男女の花とはすゝ〔一六オ〕 きを乎花といふは男花の如く、をみなの花は女郎花をさすへし、 にほひは色なり○此集には須と志とを競とよめるは、壮士ますらをの相いき みあらそふを云、祝詞に伊須呂古起いすろこきてふも、荒ふる神達の競ふを云 り草のすゝきも物よりことに高くしけく、ゆゝしきさまなれば、すゝ きと名つけ、まことに男花也けり、凡草木一種の中に、雌雄めをあるのみな らず、別種にも相対へてみなさるさまなるあれば、こゝに男花女郎花 をいへるうたがひなし○ものゝふはたけきつはものをいへど、こゝは夫迄 はなくて、たゞ男てふ詞に冠せたるのみ、委しく冠辞考にいふ 《上欄》万葉に尾花/と書たるを以/て獣の尾に/似たりと思ふ/は借字をし/らさる人の誤/なり