江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第一七首) 巻之十七 同し人 越中守なる時のうたなり 気佐能安佐気、秋風佐牟之、登保都比等、加里我来鳴牟、等 岐知可美香物(三九四七) けさのあさけ、あきかせさむし、とほつひと、かりかきなかん、ときちかみかも
今朝の秋風ことさらに肌はだ寒さむくなれゝば、雁の来らんことも近きならん、 と覚ゆる秋の中ごろのさま也○遠つ人かりとは、胡国より文をつけ て来りしてふ、唐からの古事に依て雁を遠き使人つかひとしていふは、人麻呂 の、遠つ人猟かり路ちの地つちとつゝけしなとをとりし成べし、さて此家持主の〔一七オ〕 歌は、此頃に天ざかる夷ひなに年へぬ、しかれどもゆひてし紐をときも あけなくに、と并あはせてよめるを思へば、京にある思ふ人の便をまつ意にて、 よまれしならん○けさは此この朝あさの略語、あさけは朝あさ明あけの中略、にて同 し事ながら委しくおり立ていふには、かさぬるなり