江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第二五首) 相聞 巻之二 大津ノ皇子賜フ《二》石川郎イラツ女メニ《一》御歌 足日木乃、山之四付二、妹待跡、吾立所沾、山之四附二(一〇七) あしひきの、やまのしづくに、いもまつと、わかたちぬれぬ、やまのしづくに
これは先男女のおもふ意を、互に言きこゆるをいふ、然れば あひきこえとよむ也、後の集にて恋の部てふに、大むねは同じけれど 此集にては、兄弟姉妹などの、相思ふ歌も此中に入たり〔二二オ〕 此皇子は、天武天皇第三の皇子なり、事わびしく才学ありしかど、 持統天皇即位まして後、そむき給ひてほろび給へり 意はかくれたる事なし、たゞ山のしづくにぬれて待給ふは、いかなる度 のことにや、今よりは計り難し○吾立ぬれぬ云々は古歌の常にて、いと よろし、同じ語をかさねいふは、ことをしたしくするにてうたひあ けたる時、いとも身に入て覚ゆべきなり○山のしづくとは、必ず山の したゝりならでも、木の露をもいふなり