江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第二七首) 巻之七 寄ス《レ》草ニ〔二三ウ〕 鴨頭草丹、服色取、摺目伴、移変色、之苦沙(一三三九) つきくさに、ころもいろどり、すらめとも、うつろふいろと、いふがくるしさ
これはよめる人しらず何に寄てふは其ものをことばして譬歌の如く詠るも、 又其物は少すこし挙て、やかて便りに思ふ心をいへるも有て、一むきならず 《上欄》後世の如く寄/草てふ題に/てよめるには/あらずかりに/題を付たる也 女の歌と見えたり、男のいはんまゝにゆるさじとにはあらず、末とほる事の かたければうけひかずといふを、月草の花もてすれるきぬの、色のうつろ ひやすきに譬へたり例集中品々あり、冠辞考に委し○鴨頭草を和 名抄につきくさとあり、俗につゆ草といふ是なり、げに鴨かもの頭かしらの色し たる花の、夏の末より秋にさくあり、さてむかしは時につけたる 花などを、やがてきぬにすりつけたるが、巻八に秋の露は、うつしなり けり、水鳥の、青あを羽はの山の、色づくみれば、とよめる又後ながら、江家次第、法 華会調度に、鴨頭草の紙二帖とあるを考みれば、昔も奈良の朝など〔二四オ〕 には、つき草の花を紙にうつし置て、また衣にすりけるにや侍らん、 右巻八の歌は、つき草ならねどうつしものするわさのあるゆゑに、しかよめ りとみゆれば也、且つき草とは、物に色のうつり付ゆゑにいふならんか 《上欄》つき草を音/便にてつい草/といふを顕昭/なとは夏草/と書たりひか/ことなり