江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第三一首) 巻之十 譬喩ノ歌〔二六ウ〕 橘、花落里尓、通名者、山霍公鳥、将令響鴨(一九七八) たちはなの、はなちるさとに、かよひなば、やまほとゝぎす、どよませ(ママ)んかも
これはおもては他物をよめる様にて、打かへしみれば恋の心なる也、そが 中にまれに思ふ心をかろくあらはしたるもなきにはあらず、古今の序に云 るはひとへにのみおもへる成べし、又此集に譬喩歌とあるは皆相聞なり 秋萩を鹿の妻てふことく、橘は郭公をあるしのやうにいへり、然は古今に あきはぎにうらふれおれば、足引の、山下どよみ、鹿のなくらん、とよめる 類にして、橘のはなちる里に通はゝ、郭公の声たてゝどよまんてふを、 面にて妹か里に通はゞ、里人のこちたく、いひさわかんことに譬へたり ○花ちる里とは、けしきばかりにいへる成べし、又古今に吹風を鳴てう らむる鴬は、我やは花に手たにふれたる、かくよめる歌にて、我通 ふゆゑに、花の散たると、郭公をうらみたる意はさまではあらじ〔二七オ〕 《上欄》或説に此歌/を古をしのふ/也といへるは誤/なりそは古今/集の昔の人/の袖の香そ/するといへる/歌によりて/なり万葉に/もかゝること/有とおもへる/にや