江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第三四首) 巻之三 笠かさの女郎いらつめ贈ル《二》大伴ノ宿禰家持ニ《一》歌 陸奥之、真野乃草原、雖遠、面影為而、所見云物乎(三九六) みちのくの、まのゝかやはら、とほけれど、おもかげにして、みゆてふものを
女郎は郎いらつ女めと謂べし、紀にも集中にも郎女、郎姫、とあれば書そこなへるならん 陸奥なる所すら、一たび見しより後は、面影にして見ゆといふ物を、相あひ〔二八ウ〕 逢期あふときはへだてあれど、面かけつとそひて、我はえわすれずと也、このたび 三首の歌の中に、二首はつくま野に、生る紫、きぬにそめ、いまだ着ずして、 色に出けり、又おく山の、磐いは本もと菅すけを、根ふかめて、むすびし心、わすれ かねつも、とよめるを相かねて意得べき也○真野のかや原は、和名抄に 陸奥国、行方郡真野とあり、其野なるべし○所見云と書て、みゆとよむ 集中にかゝる所をみゆと布ふとも、知布ちふとも書たれば云々いふを略して布 といひ、又と伊の反知なれはちふとも書たりけれども、今の京となりては、ことば を通はしてて布ふといへり、二廻通はしていふ例多き也、されば古きには ちふと書て唱ふるには、てふといひしにや、凡の語仮字と、唱ふる時の音とは 別なるめるを、後世は其唱ふるが如く書故に、実にたがへる物多きなり