江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第四首) 同し巻 詠鳥 梅枝尓、鳴而移徙、鴬之、翼白妙尓、沫雪曽落(一八四〇) うめかえに、なきてうつらふ、うぐひすの、はねしろたへに、あはゆきぞふる
みたるさまを其まゝいひつらねたるが、おのづからうるはしき歌となりた るなり、よくまれあしくまれ、かく心得て後によむべきなり、鳴てうつらふ は、枝うつりして鳴ともよめるに同し○白妙のたへは借字にて、絹布の 惣名をたへといふゆゑに、白細布とも書り、さてまた布にても細こまかに〔六ウ〕 織たるを和にきたへといひ、布のわろきを麁あらたへといふ也、且それがもとは 白けれは白たへといふのみ、白くたへなるものともいふ説は、古しらぬものゝ 字につきていへるなり、又白しろ妙たえの雪、白妙の雲とつゞけたるは、白細布の 如てふ略のつゞけなり、猶冠辞考に委し○沫雪とはもとより沫あはの如 き物なればいふ、故に古今集以上には冬も専もはらいへり、此歌にしかよめる 故にや、後世は春にのみあわ雪とよむ事、後人の思ひよりのわざにや、 仮字も泡沫の事は阿和あはと書淡あはしきてふ時は、阿波あはと書て、相似たる語 ながら別なり【後世淡沫ともに/あはと書は誤也】○梅も万葉より和名抄まて宇米うめと書り、 むめは誤なり【古今集に梅をかくして、あなうめとよめり後世/誤たるは牟宇字似たるゆゑあやまりたるなり】