江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第四七首) 同し巻 同し人下《二》筑紫ノ《一》時海路ニ作歌【二首の中】 名細寸、稲見乃海之、奥津浪、千重尓隠奴、山跡嶋根者(三〇三) なぐはしき、いなみのうみの、おきつなみ、ちへにかくれぬやまとしまねは
人麻呂の筑紫の任の事あらば、集中に尚其辺の歌も有べきを、外 に見えずさらば、臨時に宰府などへつかはされしにや 難波津よりこぎ出て、播磨のいなみの海つら行ほど顧されば、今は 都のかたの、山も見えずなりて、只白浪のみ、千重に立つゞきてある を、千重たつ波に、大和嶋根はかくれたるといひなせる也、かゝる言なし に勢いきほひの有こと、此人の歌ぶりなり、さて名残おもふ情をばいはで、其有 さまのみいふに、其時のおもひのほどをもしられて哀也、後の歌かくいふ が上にそのかなしみを、意をも理ことはらんとする故に、すがたわろし、心の〔三九オ〕 味うまみもなし○名な細くはし寸きとは、名高く聞なれたるをいふ、すべてくはし とは、花くはし吉野いすくはし、くちら美女をくはし女、馬を くはし満、てふことくほめたる詞也○山やま跡と嶋しま根ねは既に云り、根とは本 をいふなればほめてそへたりヽ天皇の御名に日本やまと根ね又足たらし根ね命など多し 《上欄》玉葉に此歌/の初句を名/に高きと詠/たるはいかに/そや