江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第五〇首) 巻之七 臨テ《レ》時ニ作歌 今年去、新嶋守之、麻衣、肩乃間乱者、許誰取見(一二六五) ことしゆく、にひさきもりが、あさごろも、かたのまよひは、たれかとりみん
これは一つの家集などに、さま〴〵の歌を書集めたるはしに、かく書つ らんをそのまゝに挙しなりけり〔四一オ〕 つくしへ東より三年がはりにて、今こ年とし行ゆく衛まもり人ひとなれば、新さきもりと 云り、さて妻などに別て三年筑紫に有ほどは、麻の衣の肩もそこな ひてんを、誰とり見てつくろひ着せんものならんと思ひやりて、他人の よめる也、家持卿のさきもりにかはりて、其心を読る歌あるが如し、はた 巻十四に、かぜのとの遠きわきもか、きせし衣、袂のくだり、まよひきに けり、とよめるも防人の歌にて同し意こゝろ也○新嶋守と書たるを、今本に にひさきもりとよめるはよし、筑紫の嶋のさき〳〵を守らしむれば、崎守 と書はその意をかければなり、然るを或抄物には、是を新しま守とよみ て、流人の如くおもへる説あるは誤れり、防人の事は軍防令に、くはしく、 且此集の十四巻、廿巻にも歌いと多くて明らかなるをや○肩の間乱〔四一ウ〕 をかたのまよひと今本によめるもよし、和名抄云【漢語抄云万与/布一云与流】繒 欲《レ》壊ト也と云り○許誰は誰歟と草に書つゝけたるを誤れる成へし是も 今本の訓によるべし