江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第六一首) 同し巻 誉ヨ謝サノ女メ王作オホキミ歌 流経、妻吹風之、寒夜尓、吾勢能君者、独香宿良武(五九) なからふる、つまふくかぜの、さむきよに、わかせのきみは、ひとりかぬらん
こは御幸の折、京に留り居て、夫君の旅のほどを思へる也、且此女王は続 日本紀に、慶雲三年六月、従四位下誉謝女王卒とみゆ、伝は考へず 夜のものゝすそなびきたるしも、さむき夜に夫の君は、いかなる草枕 にまろねして、わび給ふらんとさゆる夜にしらぬ境を思ひやり給ふが あはれ也○ながらふるは、夜の物のすその長くはえたるをいふ、仁徳天 皇の大御歌に、長途のことを、打渡すなかはへ(ママ)なす、とよませ給ふなか らへにおなし、妻は借字にて衣のすそのつま也○いにしへ適た垂たれてふも のは夜衣也けり、されど女のかさねの衣を直にひきかづきてぬるさま 古き絵などにもあれど、伊勢物語によるの物まて贈りけると書た〔四九ウ〕 るは、被のことか、論語に有《二》寐衣《一》長一身有《レ》半といふ如こゝにもしか成べし