江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第六九首) 巻之三 天皇御-《二》遊雷岳ニ《一》之時、柿本朝臣人麻呂作歌一首〔五五オ〕 皇者、神二四坐者、天雲之、雷之上尓、庵為流鴨(二三五) すめろぎは、かみにしませば、あまくもの、いかづちのうへに、いほりせるかも
こは持統天皇の行幸なる時の歌なり、雷いかつちの岳をかは雄略紀に委し、雄略 の御時より、三み諸もろ山をいかつちのをかといふ、又かみをかとも云、古は雷をさし て神とのみいふなりければ、是もいかづちの岳と云に同し意なり 天皇は、顕うつしし神にます故に、雲の中の雷の上に、みやゐせさせますとなり 岳の名によりて、たゞに天皇のはかりがたき御いきほひを申せり ける、さまはたゝ此人のはしめてするわさ也同じ人、皇すめろき者は神かみ尓に之し坐ませ者は 真ま木き之の立たつ荒あら山やま中なか尓に海うみを成なす可か聞も、とよめるも同じさま也○天皇を、やがて 神と申すことは、古史、宣命などにもいと多し○此庵は行宮をいふなり 《上欄》人麻呂の歌/は此集に有/は皆かゝる風/骨也然るを/古今のよみ人/しらぬ歌を/人まろの歌/也なとする/物は万葉を/はみぬ人のわ/さ也又人まろ/より上つかた/の世にはかく/巧なる歌は/見えすすへて/此集に入た/る人も人丸集/によみ人し/らぬ歌もい/とよろしき/多し人まろ/の比は佗に/も上手は出/来しなるへし