江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第七首) 同し巻 同し人 従明日者、春菜将採跡、標之野尓、昨日毛今日毛、雪波布里管(一四二七) あすよりは、わかなつまんと、しめしのに、きのふもけふも、ゆきはふりつゝ
春の来ては明日ばかりよりなどわかなつまんとかねてよりしるし ゆひたりし野辺に、昨日もけふも雪のふりければ、猶もあすさへつみ がてなる初春のさまをいふ也○標之野とはいつこにまれ、標をしつる〔九ウ〕 をも注連縄引たるをも、そこの草木にしるべの物を結たるをも又 右によりて心になしおくをも云べし、此赤人などは心に思ひしめしを云 ならん○管は借字のみ、凡此辞のもとは一つより九つまてにつといふ、 十より末はたちみそぢといふもつと通音にて物の数を分つ辞也、 扨雪はふりつゝといふを下に初て降つゝといふ、物のかさなることにいふ 辞となれり、又それを転してなからてふ意にも用ふことは、譬へば道 の行手のけしきを見つゝ行てふも見ながら行てふも同し意となれ るが如し、且集中に重る意の所に乍の字書るもあるは字を用る意 を置ぬなり、皇朝の古は語をむねとすればなり