江戸時代中期の国学者・賀茂真淵による『万葉新採百首解』(京坂二書肆版)の翻刻テキスト。
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(第九〇首) 巻之一 麻ヲ績ミノ王オホキミ流《二》伊良虞嶋ニ《一》時ノ人哀傷シテ作歌【人の上時の字脱/たれは今加へつ】 打麻乎、麻績王、泉郎有哉、射等籠荷四間乃、珠藻刈麻須(二三) うつそを、おみのおほきみ、あまなれや、いらごがしまの、たまもかります
今本此端の詞に伊勢国伊良虞嶋云云とあるを裏書にて、天武紀 云云四月三位麻績王有テ《レ》罪流《二》于因幡ニ《一》云云是云配《二》伊勢国伊良虞嶋者 疑ハ後人依テ《二》歌ニ辞《一》記乎、といへるはよし、いらご嶋伊勢に名高ければ、後人 紀をは見ずして伊良虞嶋といへる、傍に伊勢国と傍注したるを、其 後書誤りたる成べし いにしへよき人の流されたるには、藻かりすなどりなどの業はし給は ねど、嶋におはすといへば、時の人其わびしさを想像まゐらせて、 しかいふなり、行平卿のもしほたれつゝわふとこたへよと、よまるをも〔七〇オ〕 おもひ合すべし○打麻乎、こは例の四言の句とてうつそをと、よむ なり、巻十六に打うち十そ八は為し麻を績み之の児こ等らとあるを例とす【これは打は今と同/しく美の借字に て、十八は麻者也為は助辞也、かくつゞけたる句も同じ/麻績なれば、たがはざるを今本にうつのまをとよむは誤也】、又巻十二に、をとめらの績を麻み 之の多た田た有なる打うち麻そ懸かけ績うむ時ときなしに恋度かもと、あり此打麻懸はうつそかけ とか、うつをかけとか、ならではよむべからず、然れば今もうつそをと四言 にこそよむべけれ○有哉はなるやとよむべし、今本にあれやとよみし は古意ならず、且集中にさるかながきもなし、古今の今本には、行なれ やと、いへることかた〴〵あれど、既に其頃には万葉の古意もたがへるが多け れは例としがたし○刈麻須はかりて坐也、王をあがめてますといへり